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IDE学生レポート(#1, 2012)_若林一貴君(高橋研究室)

 

「イスラム世界との未来対話セミナー・アンマン会合」 未来対話感想文

若林 一貴

国際開発工学専攻 修士課程

1       活動概要

外務省と笹川平和財団の共催による、「イスラム世界との未来対話セミナー・アンマン会合」に参加した。このセミナーは学生・有識者が日本・中東双方から参加し、中東に関連した事柄について発表・議論することを目的としている。このセミナーの中の「青年の社会変化」と題するセッションにおいて、日本の青年の代表として発表を行った。期間は2012年度の2/27から3/4までであり、書類と面接による選考を経て、派遣されることとなった。

2       セミナー

日本側の代表として、日本在住の学生のグループ(5人)、ヨルダンで活動している日本人JOCV(5人)が参加し、ヨルダン側の代表として8名程度のヨルダン大学の学生が参加した。その他に中東関係やイスラム文化の有識者が参加していた。未来対話セミナーは基調講演、セッション1~5、閉会セッションからなっており、日本在住の学生のグループはセッションの一つである、青年セッションで発表を行った。

2.1       青年セッション

2.1.1   日本側の発表
我々(日本在住の学生)の発表は、日本の青年の実情を伝える内容として一貫性のある発表になっていたと思う。ただ発表内容に関係した質問が一つしかなかったのが残念であった。もう一方の日本人のグループの発表もまとまりのある内容であった。ただ日本から出て海外での活動を通して感じたこと、という内容であった。このような意見はヨルダンに限らず世界中どこへ行っても聞くことができるので、それよりは現地での活動を経験した日本人からみたヨルダンの状況、といった地域性にこだわった意見を聞きたかった。

2.1.2   ヨルダンの学生・有識者のコメント
ヨルダンの学生の発表は本の中の一項を取ってきた程度のもので具体性にも独自性にも欠けていたのが残念であった。ヨルダンの学生として意見も特になく、ヨルダンの学生がどのような考えをもっているのか、具体的になにを行っているのかが分からなかった。また青年間の対話といいつつ、有識者が演説を始めるので聞いていて企画の趣旨に反していると感じた。青年セッションに限った改善策としては事前にお互いの発表内容を共有し、疑問点を洗い出し質問を考えておくことが有効だと考えた。

2.2       その他のセッション(有識者の発表)
有識者の発表は的を得ないものが多かった。中東諸国の現状を伝える内容としてはよいかも知れないが、具体的にその現状に即した解決策を提案するものではなかった。そのような発表に対する反応も、長々とした同意意見であり有意義な話し合いとは言えなかった。問題点を挙げるだけでなく、一歩前に進む内容の発表を期待したい。
ただいくつかの発表は面白い内容であった。ある有識者はイスラムの考えはイスラムでない人との区別として作用するのではなく、むしろイスラムの考えを通してより相手を理解しようとしていると語っていた。また「アラブの春」が中東の人々にとってアイデンティティを刺激したようで、「アラブの春」に関係する発表内容が、その議題ではない場合も伺えた。このようにイスラムやアラブという集団を成す枠が彼らのアイデンティティにとって重要である一方で、バーレーンの有識者は、他の中東諸国とバーレーンを一括りに議論しないでもらいたい、と発言していた。やはり、どの地域、どの文化であっても同調性や誇りとなると同時に、個人や国が独自性を主張する際に障壁と思うこともあるということだろう

3       現地情報
市内視察や現地住民との交流を通して、ヨルダンのインフラ状況や文化的・政治的状況などがわかった。事前に収集した情報とわせて考えることで実際の現状をより理解することができたと思う。

3.1       インフラ
インフラは基本的に整っていない。移動はタクシーが主な交通手段であり、バスは一部のみ整備されていて、電車は、ヒジャーズ鉄道の一部が残っているが、基本的には地上地下に関わらず整備されていない。水道は上下水道が完備されておらず、設置されているのは、谷の地点に排水溝がある程度である。普段は一週間に一度給水車が各家庭を尋ね、タンクに水を貯め、それを一週間使い続ける。滞在中に雪が降ったため、排水溝より水が溢れている様が確認できた。夜は明かりをつけている建物が少なく、街灯もほとんどないため、街が非常に暗くなる。普段東京で如何に電力を消費しているかを感じた。一般家庭の家屋は部屋間にドアが無いため、冬は非常に寒い(夏は風が通りよい)。電気・ガスの供給も十分でないため、暖房も寒さをしのぐほどには使えない。このような状態を改善する一つの案として、ダンボールを壁につけることを考えた。ダンボールは空気の層をもち、空気は熱伝導率が悪いので、保温に適している。

3.2       現地住民
現地住民の交流としては、日本語を学ぶ学生と現地に住む家族、町の人々との会話を通して行った。日本語を学ぶ学生との交流はヨルダン大学にて行われた。日本語講座は大学で開かれているが、一般者にも開かれており誰でも参加可能で、15人程度の現地の人が参加していた。日本語の習熟程度は様々であり、日常レベルの会話であれば問題なく行える人から基本的な単語であっても分からない人がいた。男性と女性の人数はほぼ同数であった。自己紹介ゲーム・料理の紹介を通じて親睦を深め、互いに意見を交換するなど非常に有意義な時間であったが、ヨルダン大学が7時に閉まってしまい、心残りであった。
機会があるごとに現地の人々と話をしてみたが、大学で学んでいるもの以外で英語を話せる人は稀であり、十分なコミュニケーションが取れなかった。

3.3       ヨルダンの文化的・政治的側面
ヨルダンにはヨハネがイエス・キリストに洗礼を授けたと言われている場所がある。キリストの洗礼地にはいくつかの説があるが、遺跡が発見されたことによりヨルダンにある場所が本物とされている。現在は陸地でありヨルダン川から離れたところにあるが、かつてはヨルダン川は現在よりも大きな川であり、枯渇してしまったために川から離れた場所にある。多くの文化がこの洗礼地から始まったと考えると、感慨深いものである。
また政治的側面としてヨルダン川(ヨルダン/イスラエル国境)は対岸にイスラエルの施設が見える。その距離はほんの10m前後であり、すぐにでもたどり着けそうな距離にある(雪の後で水位があがっていたので、普段はもっとちかいかもしれない)。近くには銃をもった兵隊がいた。たかが川であるが、そこには人間が作り出した境界があり、これが国境かと感じさせられた。
その他にもモスクや聖ジョージ修道院といった宗教的建築物、アンマン城といった歴史的建築物を見学した。

4       まとめ
ヨルダン滞在を通して、中東諸国の有識者との議論・現地学生との交流・市内視察を行った。現地学生との交流では当地学生の意見や日本文化の浸透度合い、当地の現状を知ることができた。市内視察を通しては、インフラの実情とヨルダンの文化的・政治的側面を感じることができた。特にインフラに関しては、まだまだ脆弱な環境を直視しこれを問題と捉え、エンジニアリングの視点から解決案を考えたので、機会があれば実現したい。今回の訪問により中東の一つの国を訪問することができたが、中東といえども一つ一つの国の実情は様々なので、今後も中東周辺各国、また他地域への訪問を通して現地の人々との相互理解を深め、協力の場を探って行きたい。

(2012年6月1日掲載)