Reading report – Investing in Development #5

Book Name:
Investing in Development – A Practical Plan to Achieve the Millennium Development Goals

By: Jeffrey D. Sachs, The UN Millennium Project

Reported by: Shintaro Oya (B3)

Chapter 5 / Public investments to empower poor people (part 1)

Summary

MDGsに到達するために必要な実用的な知識や道具は、先進国が過去に積み重ねてきていて世界はすでに所持しており、途上国における発展は、あとは現地で具体的な行動を起こせば達成することができる。そのためには、まず、巨額の新しい投資とより良い政策・制度が必要となる。国連ミレニアムプロジェクトでは、飢餓や教育といった10のテーマ別に「タスクフォース」という専門家の作業部会が研究を行い、途上国における貧困削減戦略を提言しているのだが、この「タスクフォース」は2005年に、発展のために必要な投資・政策について詳細な報告書を提出している。本章では、それらがまとめた形で紹介されている。

国連ミレニアムプロジェクトは、全ての開発途上国に対し、MDGsベースの枠組みが、農村開発、都市開発、保健システム、教育、ジェンダーの平等、環境、科学技術およびイノベーション、という公共の投資・政策に関する大きな7つの「クラスター」から設計されるべきだと勧めている。ただ、これら「クラスター」の幅はかなり広く、開発の熱意をひるませかねない。プロセスが複雑な人的資源やインフラの構築等は、確かに何十年にもわたる長期の投資プログラムを必要とする可能性もある。しかし、実は多くの行動と投資が、すでにある能力やインフラを用いてより短期に行うことができるのだ。それは「クイック・ウィン」と呼ばれ、2005年(本書出版年)から始めても、かなり多くの人命を助ける機会を与えるものとされている。今回は、この「クイック・ウィン」を念頭に置いて、7つの「クラスター」のうち、農村開発と都市開発の2つについてまず記していく。

  1. 農村開発:農業生産および農村の収入の増加

世界で極度の貧困の中心にいるのは小規模農家である。2004年の国際連合食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization)の発表によると、慢性的な飢餓に苦しんでいる人は世界に約850万人おり、その半分が小規模農家であるといわれている。農村部の貧困に取り組むには、農家の生産性向上、農家の収入上昇、土地を持たない人々への対策、基本的なサービスの拡大が必要である。

多くの国で農家の生産性が低い理由としては、土壌の栄養分の枯渇、水資源の不適切な運営、農家が苗木や農業用家畜の改良品種を使用する術を持たないこと、また現代の農業研究の成果が十分に普及していないことが挙げられる。農業生産の向上には、これらの問題に対する投資と改善が必要なのだが、それを助けるのが「緑の革命」である。「緑の革命」は、農業革命に始まったイギリスの産業革命から、1970年代のアジアにおけるブームまで、現代における各国の経済の「離陸」を前進させてきた。2004年にアナン前国連事務総長が呼びかけた「21世紀の緑の革命」では、アフリカや、アジアと中南米の取り残された地域において、道路や運送手段といった農村インフラ、現代エネルギーサービス、伝達技術を改善することの重要性が指摘されている。

今日、ほとんどの農村部の農家が市場から切り離されてしまっている。それは、輸送サービスが乏しいからであり、特にアフリカでひどい。貧困国の農村部におけるネットワークはあまりに小さく、手入れ不足により荒廃してしまっているので、公共投資により道路の開拓や修繕が必要である。この際、農村地域と主要都市とをつなぐことが望ましく、また、道路に対する十分な維持費を考慮に入れておくことを忘れてはならない。

貧困者の多くは、特にアジアでだが、土地を持たない者である。そして、そのほとんどが、都市部の農業以外の市場で生計を立てようとしている。しかし、このような市場はあまり機能しておらず、彼らは農業以外の仕事を手に入れることができないため、結局、賃率の低い農作業に従事することを余儀なくされている。彼らには収入を得る適切な機会を与える必要があり、労働者の技術を向上させるような種々の介入が行われること望ましい。それにより、より多様な労働の機会を与え、農業以外の経済を活性化させることができる。例えば、男性と女性両方に対する初等教育と技能訓練の充実は、労働市場をより競争的なものとするだろう。また、労働団体や職場の自由な移動を認めるような法律を制定することは、貧困者の労働市場における立場や交渉力を強化させることができる。

農家の収入の改善以上に必要なのが、農村のインフラ拡大とその広い普及である。家庭給水と衛生へのアクセスの改善は、保健、教育、ジェンダー、環境、その他のゴールを達成する上でも重要である。また、ほとんどの農村では、エネルギーサービスへのより良いアクセスが求められている。実際、ゴール達成のためのいかなる戦略も、学校や病院のような地域施設の建設に着眼しており、これらの運営には農村部におけるエネルギーサービスの普及が欠かせない。他にも、栄養失調や性教育への対策の拡大が必要である。

2. 都市開発:雇用の増大、スラムの改善、新たなスラム形成への対策

工業やサービス業といった農業以外の活動のほとんどは、都市部で隆盛する。というのも、都市部というのは経済活動が集約されているため輸送費がかからず、また、洗練された分業体制において重要な、顔と顔を見合わせたコンタクトがとれるからである。そのため、国の経済成長のためには都市部の貧困削減に焦点を当てることが非常に重要なのである。

来る数十年の間に、アジアとアフリカの途上国における都市化は急速に進み、都市人口割合が高所得国に追いつくと言われている。前例のない急速な都市化には課題も多い一方で、様々な場面で良い機会を生み出す可能性もある。中でもスラムの改善は、都市の生産性向上に大きく寄与するかもしれない。本書は、都市開発への投資には、スラム住民の土地保有権の保障、スラムの改良化と家屋の改善、都市全域のインフラ拡大と効果的なサービス普及、ローカル経済の発展に伴う都市の雇用の創出、スラム形成に代わる案の供与という5つの領域を考慮していなければならないと提言している。

土地保有権保障の改善戦略は、都市部におけるスラム住民の生活および土地利用の改良にとって中心的なものである。これを考える際には、女性が平等に土地保有権および財産所有権を手に入れることができること、地域ごとの異なるニーズにきちんと適合させることに気を付けなければならない。また、スラム住民が実際に話し合いに参加し、彼ら自身が意思決定を行うことができるのかも重要な条件である。

スラムの改良化がより成功するには、地元の有力者とその地域社会とが、緊密に連携をする必要がある。その際、可能な限り地域社会は計画を策定・実行する役割を負い、それらは支援されるべきで、その計画は、新たな移民の流入によって非公式な住民が増え続ける事態を避けることについて考えられなければならない。また、農村の開発と比較して、都市のスラムの改良には下水道、用水、電線といったネットワーク技術にさらに強く着目することが求められる。

個々の非公式なスラムを改良するに当たっては、市全域でのインフラ・サービスの拡大・向上が必要だが、中でも、輸送面でのニーズを満たすことが高く優先されなければならない。多くの大都市は、特に、貧困層に適度な値段でサービスを供給することのできるバスを基軸とした輸送システムを構築することにより発展に成功してきた。ここへの投資は、巨大道路や鉄道ベースの輸送インフラに対する投資より効果的でもある。ただし、自転車を含めたそれら低コストの移動手段を利用可能にする、政策の変化もまた重要だ。

増加する人口に対して、都市は雇用を与えなければならない。良好なインフラは、巨大な雇用創出に必要な国内外の投資を引きよせる。都市計画において課題となるのは、産業効率の改善と、それに伴う海外投資家の増加である。また、都市の貧困層が低い賃金および生産性で働いている非公式セクターに対する支援方法も重要な課題の一つである。

途上国における都市の多くは速いペースで成長し続けるので、都市計画の強化とスラム形成の代替案の提供が政府にとっては必要となる。貧困層にも土地が手ごろな値段で入手でき、家屋や都市インフラや輸送サービスの提供を保証することにより、新しくスラムを形成させないような代替案は提供可能となる。また、健全な都市計画および戦略というのは、洪水、地滑り、嵐といった災害の衝撃を和らげる、あるいは避けるとった点でも重要である。

Reporter’s Own Thoughts

 本章では、投資・政策分野において重要な7つの「クラスター」についてまとめられており、今回は、そのうちの「農村開発」と「都市開発」について記した。農村開発は、生産の増加と収入の上昇、「緑の革命」による生産能力増強によって、極度の貧困層の多くを占める小農家を直接的に支援することにつながり、都市開発は、雇用の増大、スラムの改善、新しいスラム形成への対策によって、国の経済成長へとつなげるということだった。これらは相互に依存しており、どちらが最初のステップということではない。極度の貧困に瀕する多くの人を助けるという点では、農村部の開発の方が緊急性は高い気がするが、そちらばかりに目を向けて、国の経済を支える都市部の開発が止まる、ないし後退してしまっては元も子もない。このバランスについて本書では特段触れることはなかったが、実際の開発の現場において、バランスのとり方如何で利害が異なってくるステークホルダーは多くいるだろうし、その議論の難しさは容易に想像できる。

次回は、残りの5つの「クラスター」について紹介する。