Reading Report – Economic Policy #4

書名:
経済政策の政治経済学(The Making of Economic Policy)

筆者: Avinash K.Dixit

報告者: Lu Gao (M2)

第2章 / 取引費用政治学の枠組み

概要

2-1 政治的結果および経済効率性

 シカゴ大学コースは、所有権が確定されているならば政府の介入がなくても市場の外部性の問題は解決されることを主張して、「コース定理」と呼ばれている。ただし、この定理が成り立つのは「取引費用」が存在しない世界のみである。この定理の条件が満たされれば、その結果は非常に経済効率の高いものになり、他人に害を与えずに一定の集団に利益をもたらすことができる。逆に、条件から乖離することによって、非効率の可能性が生まれてくる。政治過程は経済的結果に影響を及ぼそうとする場合、特に非効率的になりがちである。

 ウィリアムソンは非効率であるかどうかを検証するためには、資源制約や技術制約を重視するのと同様に、取引費用に基づく制約についても認識する必要があることを主張して、この検証を矯正可能性テストと呼んでいる。ウィリアムソンは、取引費用に関わるすべての相互作用において、費用を削減できる方法を工夫することは参加者のためであり、また、そのような工夫の成功の鍵は、関連した経済制度、歴史、その相互作用の将来への持続性などであると指摘している。従って、表面の非効率に気づいたら、すぐほかの政策を検討するのではなく、企業の組織や取引制度を厳密に検討し、どの程度成果が上げられているかから判断すべきである。複雑で変化を続ける世界に対処することが目的であるメカニズムを判断する際には、柔軟性と適応性が重大な価値を持つことになる。

 政治を通した非効率性の実例を見ることが、政治における取引費用の研究にとって有効な前提となる。農業などを補助するための政策を例として考えよう。通常これらは、頻繁に用いられるようになった輸入割当や、「自主的」規制協定などによって輸入競争から保護されており、ほとんどの場合には該当財の国内消費者に大きな負担をかけている。そして、特定の産業における利害関係者にもたらされる利益と国内消費者に大きな負担をかけている。特定の産業における利害関係者にもたらされる利益と、国内のその他の部門にかかる費用との収支はマイナスで、多くの場合大幅なマイナスを記録している。これでは経済非効率であるが、現在の関税、割当保護、価格支援、給付金などを通じて、資源を非効率に利用している部門に再分配し、該当財の消費者はより高い価格を払い、あるいは納税者の負担を重くするような政策が多く採用されているのである。このような非効率な政策が採用され続けていることに対する経済学者たちの標準的な説明は、特定利益集団によって政策誘導が行われているからだということである。非効率な政策の便益は、小規模で団結した特定利益団体に一人当たりの割り当てが大きくもたらされる。前者は、自らの便益について情報を集め、政治活動に伴うフリーライダー問題[1]を解決することが大きなインセンティブとなるが、後者は前者と比べてはるかに小さなインセンティブしかないため、情報を集めることもなければ、組織化することもない。例として、マークスの推計によれば、1980年代後半にはアメリカにおける砂糖の価格支持および輸入規制は、消費者に一人当たり11.5ドルの費用をもたらし、一方でテンサイ農業に各5万ドル、サトウキビ農業に各50万ドルの便益をもたらした。消費者は沈黙する一方、生産者の声は大きく、政府はその声に答えてしまうのである。

感想

 現実の世界は、経済全体の利益を最大化させ、それを分配するために交渉を行うコース定理による効率的な効果から乖離している。政治過程の参加者が、取引費用やその影響を減少させようとする自発的なインセンティブを持っていることを認識し、政治過程や制度が、そのような取引費用や影響を減少させるさまざまなメカニズムについて検討する必要があると考える。


[1] 経済学で、公共財のように非排除性があるサービスについて、対価(供給のための費用)を支払わないで便益を享受する者を指す用語である