Reading Report – Economic Policy #3

書名:
経済政策の政治経済学(The Making of Economic Policy)

筆者: Avinash K.Dixit

報告者: Lu Gao (M2)

第1章 / 政治過程としての経済政策決定

概要

1.3   統合—「リアルタイム」の政策決定過程

経済政策のための憲法と個々の政策条令の区別は、各側面が他方とかなりの部分重複するため、現実には曖昧になっている。ここでは区別が曖昧にされる原因について述べる。

1)    憲法は不完備契約である

憲法が契約であるならば、それらは不完備契約である。すべての考え得る状況において従うべきルールや手順を詳細に説明していない。この原因は

  1. すべての不慮の出来る事を見通す能力が足りない
  2. ルールを特定することが複雑で難しい
  3. 特定の手順を実行に移すことができるように、偶発的に出来る事を客観的に観察し、特定化することが難しい

 経済政策の憲法は、経済自体が劇的に予測できない形で変化を遂げていく中でも解釈し適用できるように、十分に一般的な言葉で表現されなければならないのである。この解釈と適用の過程において、与えられたルールの機能の仕方はさまざまである。この多様性は、その時々の実際の政治に対応して自然発生する。言い換えれば、不完備な憲法は自らの目的に沿うように参加者が解釈できるのである。例で説明してみよう。

関税および貿易に関する一般協定は、参加国を説得する役割は担うが、強制的執行力をほとんど持たない国際機関であった。主要国や貿易ブロックがGAATの憲章ルールと自らの利益が対立していると考えた時には、ほとんどの場合それらの国はそのルールを迂回して避けるか、単純に違反していたのである。GAATは各国の実現の政治力や貿易の構造や実務上の制約を否応なく認識せざるを得ない状況にあった。

2)    憲法は無知のベールの裏で決められているわけではない

憲法やルールの草案者は、それが長い間有効であることを期待するが、新しい憲法が施行されてからの数年は、その憲法やそれに基づく制度によって自ら影響を受け、さらに移行に伴う負担を負うことになることを認識している。

3)    政策条令は長い間影響力を持つ

所与のルールの下で作られる個別の政策条令を、同じ枠組みの中で方向転換することは簡単に見えるかもしれないが、それ自体が重要で、憲法と同様の持続性のある事実、制度および期待が形成される場合が多い。

長く残っている政策が非効率的であっても、その持続には意義があるという規範的な概念さえ存在する。これは「信頼の教義」と言われている。人々が既存の政策の持続を期待して契約する場合、これらの期待を裏切っていけないし、また、これらの投資をおこなうために負担した資源費用を無駄にすべきでもなく、投資費用を相殺するような大変重要な事態が発生するまで、これまでの政策の流れを変えるような行動を起こすべきではない、という理屈である。

4)    「進化論的」な見方

政策決定は、いつも変化する「リアルタイム」の下で、常にルールと条令を適当に組み合わせていく過程として考えるべきである。

  1. 政策決定は二分法[1]による明確な区別はつけられないが、段階的な変化は存在するという認識を持つことが重要である。政治過程の動学に関するわれわれの考え方も、憲法と政策条令の単純な二分法から段階的な持続期間の違いについて議論できるような、より高度な枠組みへ発展させる必要がある。
  2. すべての場合において、政策決定にはある程度の自由度があることを認めざるを得ない。しかし、政治過程はすべての段階において連続しているということを認識しなければならない。

憲法やルールは、対立がなく満場一致へと導いて、将来の政策条令を決めるための完璧なルールを提供してくる理想的な条件の下で書かれた文書ではなく、複雑で変化し続ける世界に対処し、不測の事態に対処するための手順に関する条項を含んでいながら、政策条令による明示的な修正が可能な不完備契約として捉えるべきなのである。

感想

近年、技術発展の加速と社会ニーズの増加により、憲法では、そのような急速な変化に対応できない状況がある。昔、変改に対応するため、憲法は、曖昧な言葉で状況に応じて解釈し適用できるように表現された。今後、シミュレーションなどの論理的な手法を用いた将来の変化予測と理論を含めた、憲法と政策条令の決定方法が期待される。また、複雑な変化に対応するため、憲法の修正頻度の妥当性も考えるべきである。例として、中国では1988年に「中華人民共合国用水法」を制定して、2002年に改訂した。中国の改訂頻度では、約15年、汚染物の種類の増加などリアルアイムで状況に対応することができない。一方、フランスにおいては、用水法の改訂頻度は5年だけで、もっと早く状況変化に対応することができる。


[1] 古典派は18世紀末から19世紀にかけイギリスで広まった自由主義経済学で、当時の古典派は全ての経済変数を二つのグループに分けるべきだと考えました。一つ目のグループは貨幣単位で測られた名目変数で、二つ目は物質的な単位で測られた実質変数です。名目変数である貨幣供給率が倍になると、物価水準や他の値段も同様になります。しかし生産や雇用、利子率などの実質変数に変化はありません。このことから、実質変数は貨幣の変化にはほとんど影響を受けないということがわかります。経済を実質変数と名目変数に二分し、長期的には実質変数だけで経済を把握できるという考えが古典派の二分法です。