Reading Report – Nikkei #1

新聞記事:
アベノミクスのリスク度合い 新ツールで予測し対応を
【2013年5月8日 日本経済新聞】

筆者: 有吉 章 (一橋大学教授)

報告者: Masaaki Ichimura (B3)

概要

安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」により今後日本経済がどのような進展を見せるかについて、アベノミクスが成功するというシナリオをベースにしつつ、失敗したシナリオのリスク(リスクシナリオ)に対応するため、経済がどのシナリオに進む可能性が高いか判断する手法「リスク台風マップ」について考察している。まずは、2つのリスクシナリオについて紹介していく。

1つ目のシナリオは、インフレと円安が想像以上に大幅に進行してしまうという場合である。円安にもかかわらず外需低迷や輸出競争力不足から輸出が伸びなければ、インフレが起きても経済が好転しない。円安期待が定着して円安・インフレの悪循環が起こり、日銀がこのスパイラルを阻止するために金融引き締めを行った結果、国債利払いを増加させ、利上げによる景気低迷と相まって、債務状況を悪化させる。これを「スタグフレーション」と呼ぶことにする。
2つ目は、金融緩和と円安にもかかわらず国内物価が反応せず、むしろ輸入原材料価格の上昇を吸収しようとしてさらに賃金の引き下げが起こり内需の低迷が続く場合である。この場合株価などの資産価格も一時的な上昇から反落し、ミニ資産デフレの再現により経済も後退し、税収も低下するなど政府債務の状況悪化が続くことになる。これを「デフレ継続シナリオ」と呼ぶことにする。

有吉 章氏が金融機関などでリスク管理に深くかかわっている仲間とジャパンリスクフォーラム(JRF)という勉強会を立ち上げ、調査会社ジャパンマクロアドバイザーズと現在開発しつつあるのが「リスク台風マップ」と呼ぶ枠組みである(下図参照)。

リスク台風マップ

(日本経済新聞より参照)

横軸は潜在成長率と需要ギャップを合成した実体経済の状況を示す指標を取り、縦軸にはインフレ率を取る。円の大きさは、政府債務残高の国内総生産(GDP)比で、財政破たんリスクという「台風」の勢力を表していると言える。アベノミクスが成功すれば、「台風」の中心は右上に移動し、リスクを示す円は徐々に小さくなる。
肝心なのはこの「台風」の速度ベクトルで、これを解析するのが開発されつつある「リスクベクトル」である。これは市場指標やJRFのメンバーの予想を集計し、「台風」の向かっている方向とスピード、規模の変化を予想しようというものである。リスクベクトルは、マップの各軸と円の大きさに対応したそれぞれ数系列の指数から合成される。

感想

「大きさを変化させながら平面上を動く円」で経済の行く先を予想するという発想は非常に画期的だと思った。台風という呼び名も制御が困難な経済の実態をよく表していると思う。
この枠組みはあくまで経済の状態変化と予想図を描くものであるから、リスクベクトルをどのように変化させるかについての研究も必要だと思う。