ONLINE BOOK REPORTING :WEEK6 Chapter3 デジタル技術で市民にサービスが行き届くように

Reading report week 6: 宮内 太郎 (B4)

Chapter 3: Delivering services part 1(Page 152 ~170)

Chapter 3  【デジタル技術で市民にサービスが行き届くように】

デジタル技術の発展により、積極的で有能な政府は国民向けのサービスを改善できるようになっている一方で、そうでなく消極的な政府に対し国民が説明責任を問えるような能力は持ち合わせるには至っていない。

効率的なサービスの提供には、より効率のいい公共支出ができるような、有能な政府が必要とされる。これには、サービス提供を政府の人間自身や一部のエリートに集中させず国民全体に行き届くよう、政治家や政策機関の説明責任が問えるような裁量権を与えられた市民も必要である。デジタル技術により政府能力、そして市民の権限を強化するには、次の3つの段階が必要である。

①市民の情報障壁を克服し、政治参加を促す。
②市民と政府内部両方のフィードバックを基に既存の要素を強化する。
③通信コストの減少により、より参加・発言をしやすくする。

こういったメカニズムが成功するかどうかは、政府制度の強さにかかっている。現状として、例えば、デジタル化で自身の既得権益が損なわれる可能性がある政治家は改革に反対する。このような政治家が公益のために働くようにするには彼らのインセンティブを制度により引き出す必要がある。

また、デジタル技術は、モニターが容易な定型的サービスや活動(認証化・登録サービスなど)ならばたとえ制度が弱くてもより急速に導入させることができる。一方、思慮を必要とする監視が難しいサービスや活動(授業など)においては制度がより重要になり、強固な制度であって初めてインパクトを発揮できる。ゆえに、政策課題は制度強化のためにデジタル技術を利用することである。

【つながった政府】

1990年半ばにインターネットが出現し、電子政府システムが急速に成長、2014年時点で国連の全加盟国193か国が自国のウェブサイトを有している。

自然なことではあるが、電子政府の水準は1人当たりの所得とともに上昇している(最富裕国の国民のオンラインサービス利用率は最貧国の3倍である)。途上国では、政府と国民、企業間の取引やウェブサイトから各種サービスにアクセスできるようにしたポータルなどより、財務・税理管理などのコアな政府行政システムにより多く投資している。これより、低所得国・高所得国間の格差が最も小さいのは行政システム、最も大きいものは市民・企業向けのオンラインサービス、そしてその中間にあるのはデジタル式身分証明システムであった。

また、一般的に、非農業的な仕事におけるデジタルの利用(コンピュータや携帯、及びインターネット)は企業や市民よりも政府の方が多い。この要因の一つとして、市民の電子政府サービスの利用が供給に後れを取っている点が挙げられる。ヨーロッパのようにインターネットアクセスの制限がない国々においてでさえ、市民が電子政府を利用するのは情報を得るためであり、政府と取引をするためではない。こういった取引(子供のデイケア登録など)では、音声通話などの伝統的な手段が選ばれているのだ。国民の利用率については年齢や教育水準、都市部移住との間に相関関係があり、企業の電子サービス利用は国の所得にはさほど影響を受けていない。多くの国が情報をウェブサイトで管理している一方、e-mailなどで更新の連絡をしている国は半数以下でありSMSで更新を連絡しているのはほんの一握りである。

【国家能力と市民参加の改善】

電子政府化によりもたらされるインパクトは、市民に知識がない・政府と意思疎通ができない・政府が市民の情報を持っていないといった情報の欠如と意思疎通不足に関わるものである。これに対し、デジタル技術というのは、次の4つを通じて政府能力と市民参加を改善させることができる。

①市民に情報を提供し公式な身分証明書を付与する:情報により個人がよりよい意思決定をすることができ、証明書によりこれまで利用できなかった官民からのサービスにアクセスできるようになる。
②プロセスを簡素化する:裁量の機会を減らし公的資源が洩れなく徴収・支出できるようにする。
③サービス利用者からフィードバックを受ける:規則的に満足度を調査し問題を発見したら改善する。
④モニタリングを強化してサービス提供者の管理を改善する:政府労働者の動機づけになる。

図1にこれら4つに関する概略図を示す。以下、4つの特徴や利点、懸念点などをまとめる。

①市民への情報提供および公式な身分証明書の付与

これにより、地理的問題や経済的問題といった障壁を克服し、それまで疎外されていた市民に情報を提供しサービスを供給することで市民の参加と選択を改善できる。さらには、例えば税金滞納者をサイトに公表することで税務順守といった行動を促し社会規範の強化につながる。一方で、こうしたデジタルな市民登録制度に対する懸念もあり、政府による監視、プライバシーの侵害、データの一貫性などが挙げられる。

図 1:電子政府化に必要な4つのプロセス

最近の構想としてはデータを公開し、かつそれを機械で読み取りができ、独占権がないものとするオープン・データ運動というものもある。これはまだ揺籃期で、あまり「オープン」になっている国は少ない。「オープン」にする意欲も能力もまだ持ち合わせていないのだ。「オープン」が可能になるのは、高度な基幹システムのある国ほど予算の透明度が高く、省庁間の協調・調整も有効であるため、行政システムが健全かどうか次第である。

②プロセスの簡素化

間違いや改ざんをされやすい定型的な手作業のプロセスをデジタル化することで改善可能であると考えられる。また、企業が申告書を作成し税金を支払う際に、電子申告や電子支払いを導入することで事務的な作業時間を削減することができる。

こういった電子政府システムが影響力を持つようにするためには、規制・行政面での改革が必須となる。法律や経営慣行を変更し、税務手続きを簡素化し、こういったシステムを使う納税者、税務間の能力を強化しなければならない。しかしながら、こうした電子申告や、物品・役務等の一連の調達手続きをネット経由で行う電子調達などのデジタル技術プロジェクトは失敗に終わっている政府も多い。理由としては、政府の技術的、および制度的能力の間には大きなギャップがあり、政府における規制、政治、管理、プロセス、およびスキルの現実と、電子政府プロジェクトの野心との間には大きな格差があることが挙げられる。これにより、プロジェクトは完成の前に放棄されてしまったり過少利用となってしまったりする。現に、世界銀行が融資したICTプロジェクトの約30%は完全な失敗に終わっている。

③サービス利用者によるフィードバック

利用者のフィードバックはサービス改善の触媒となり得る。先進国の都市ではこれに関する革新が生じており、利用者からの依頼に政府が応答するシステムが標準的になってきている。

途上国でもこれを追随しつつある。先進国に比べシステムが非効率な場面が多いため、フィードバックを管理に埋め込むことによる利益はむしろ多いともいえる。現に、市民のフィードバックのための苦情ポータルやコールセンターは途上国全体にわたって急速に広まっている。

こうしたフィードバックが活用される条件として、市民がフィードバックを提供する意思を持っていること、サービス提供者が苦情に応答し解決する意志と能力を持っていることの2つが挙げられる。そのためには、利用者にとってサービスの失敗を特定するのが容易である必要があり、提供者にとってフィードバック情報が具体的ですぐに措置をとれることが必要である。利用者は一度苦情が改善されれば2回以降も苦情を申し立てる可能性が高くなるという結果もあり、フィードバックと応答性について好循環を生み出すことができる。

また、サービスにも種類があり、家庭用水や電力の供給といった民間財は市民が毎日使用するため監視意志が高くフィードバックしやすいものもあれば、医療ケアや教育の質といった原因の判断が難しく苦情が解決されないものもある。さらには、フィードバック利用者が主に富裕層や高学歴者に偏ることが多く、解決時にバイアスがかかってしまう、という懸念もある。

④モニタリング強化による提供者の管理改善

③のようなフィードバックが有効なのは、提供者が市民に対して反応する意志を持っているときであるが、それは政策当局と提供者の間にどれだけ説明責任が問われているかに依存する。

提供者側を管理するという点では割と民間セクターで改革が進められている。例えばデジタル技術により実績や業績を監視できるようになれば、自身の実績が正しく評価してもらえるという意味で提供者のモチベーションを挙げることができる。実際に遅刻をしていないかなどの業務モニタリングを行うことで説明責任を求めることができるのである。

一方で、こうしたデジタル方式による業績の監視は政策界に進出することは難色を示している現状がある。実績の評価はどうしても主観的であるため、組織の管理の質や信頼度に左右されるのだ。特に政府全般にわたって政策立案とサービス提供の統合化改善に向けてデジタル技術が政府官僚制度の運営方法を根本的に変化させた、という証拠はほとんどない。

要は、デジタル技術による管理改善が可能となったのは限定的であり、普遍の構造を持つ政府官僚制度において政府全体に普及させるには困難であるということだ。

【現状と絡めたフィードバック】

新型コロナウイルスが蔓延する現在、日本では市民と政策当局や高学歴者たちの情報のギャップがどうしても浮上していると思われる。政府や専門家によるAIなどのデジタル技術を用いた調査・分析により対策が打たれている。そして主に医療機関の容量を考慮したうえで感染拡大防止のために三密を避けるといった方針がとられており、専門家たちから毎日のように新しい情報がテレビなどのメディアを通じて発信されている。もちろん専門家による正しい情報を与えられることはいいことであるが、その情報が多すぎるがゆえに知識を持たない市民の理解が追い付かず、本来やるべきことの本質を見失ってしまっているように思える。例えば日本ではデマ情報によりトイレットペーパーやティッシュペーパーの買い占めが発生した。実際、私の周りの同級生やバイト先の主婦さん(50代)など、様々な世代から「どれが正しい情報なのか分からない」、「結局どうすればいいの」といった意見を伺った。こうしたある意味情報過多にある現状も逆に市民を混乱に陥れる可能性があるのだ。未だ開発途上国では情報収集が容易ではない一方、先進国では逆に情報が多すぎる場合がある。インターネットが普及し情報を得やすくなった半面、緊急事態にどれが正しい情報か多大な情報の中から市民が分かりやすく判断できるよう、今後は広がったものを重要なものだけ選んで縮めるというような管理も必要になっていると考えられる。