Environmental report in Denmark

こんにちは。今年の10月に学部三年生として新しく阿部研究室に所属させてもらいます、海宝といいます。現在はデンマークのデンマーク工科大学に交換留学中で、実際の所属は1月からです。阿部先生から留学先でみたことなどを書かせてもらう機会をいただきました。

デンマークでは10月の第三週にAutumn Holidaysという一週間(僕は十日間)の長い休みがあるので、僕はその休みを使ってデンマーク内の5つの町を周りました。デンマークは環にやさしい国ということで有名で、特に風力などの技術面、政策面が取り上げられることが多いです。それは僕がこの国を留学先に選んだ理由の一つでもありましたが、この旅では実際のリアルな生活の中でどのように環境を守る取り組みを行っているのか、に興味を持ちました。結果見えたのは、環境にやさしいというよりも、自然が好きな人たちが作る、自然と共存した街、という印象を抱きました。この他にも二か月間暮らしていたうえで感じたことも混ぜて、環境というテーマを中心に添えて、この留学レポートを書かせていただきます。少々長くなってしまいましたが、お付き合いいただければ嬉しいです。

 街づくり
憩いの場としての公園

僕が5日間で見て周った7つの街から、共通する特徴をみてとることができました。街の中心には大きな教会がそびえたち、その横にはきれいな墓地が広がっています。そして必ずと言っていいほど、そのそばには大きな公園が、湖や池、川とともに市民の憩いの場として存在しています。その大きさは日本でいえば、洗足池、井之頭公園などほどのものです。犬連れで散歩する人や子供を連れた家族、ベンチに座ってくつろぐ年配の方などでどこも賑わっています。水辺や小高い丘にはベンチがおいてあり、そこで景色をみながらくつろぐことも可能にしてくれます。公園内にある様々な休憩スポットや景観から、その計画性の高さを感じさせられます。

1

デンマーク南の島Lolland, Maribo 湖の側の公園と教会

 

2

デンマーク西の半島 Jutland西岸, Ribe 駅の側の公園、橋が中央にかかっており、池を見渡せる。

3

Jutland西岸, Esbjerg 海沿いの公園、芝生のステージ

 

4

Jutland東岸, Kolding 駅横の湖の公園、向こう岸の丘には教会がある。

 

留学先で受講している環境マネジメントの講義で、都市計画における公園の重要性をデンマーク人の教授が強く語っていたのを思い出しました。デンマーク人にとって、公園というのは疲れたときに休む場所であったり、家族で休日を楽しむ場所であったり、様々な面で重要な役割を果たしているのかもしれないです。そしてこういう自然とともに子供時代を過ごしたのなら、自然を大事にする国民性が生まれるのかもしれないと思いました。

余談ですが、墓地についても少し述べたいです。日本とは違い、緑の芝生の上に広がり、大抵大きな木の下に、もしくは木に囲まれ、墓石が立っているんです。遠くから見て公園かと思い入ると、墓石が並んでいて驚きました。指輪物語のホビットの里といって伝わるかどうかわかりませんか、そのような童話の世界の雰囲気を醸し出す墓地で、とても(失礼かもしれませんが)感動しました。やはり自然が好きなのか、とここでも感じます。

5

Ribeの墓地

6

Mariboの墓地

 

自転車

デンマークは自転車大国としても有名です。車に180%の税金をかけることでその所有を制限し、市民の健康や環境配慮のため、自転車の使用を強く奨励しているのだと聞きます。まず紹介したいのが自転車道についてです。数年ほど前から僕の住む町、三鷹でも自転車道がつくられ始めていますが、いまだ主要な通りに限られているのが現状です。一方でデンマークはというと、主要な通りはもちろん、ほぼすべての通りに自転車道がしっかりと配備されています。ゆえに長距離の移動であろうと、歩行者に危険を感じさせず、ゆったりとある程度のスピードで走行することができるのです。

また、自転車はこの国では軽車両としっかりと認知されているためかわかりませんが、車と同様に道路の右側通行は厳守の様です。始めはそれを知らずに何度か自転車とすれ違い、怒られたこともあります。さらに曲がる際には腕のサインを使い、車のライトのように、曲がる方向を後ろの人に伝えるのも多くの人がやっていることです。こういった市民の自転車交通ルールへの意識の高さには驚きです。特に免許制度もなく、警官もどこにもいないのにです。市民がお互いに快適さのために、この規則を作り上げているのだと感じました。

さらに、自転車をより活用してもらうために、電車に自転車を持ち込み移動することができます。これにより遠出であろうと、自転車を運んでどこまでも移動することができるわけです。

自転車は当然ながら二酸化炭素を排出しない、環境にやさしい乗り物です。それを活用させるため、インフラを整備し、また快適な走行のための交通ルールを国民全員に浸透させられているのは、この国の長年の努力の功績なのだと思いました。

7

写真はデンマーク中央の島Fyn島のOdenseで撮影。駅をまたぐ歩道橋にも自転車道を配備しており、右側に見える大きなスロープが自転車用の道

ペット

僕は犬を飼っているので、ペットとともに暮らしやすい街というのも、僕にとっては重要な要素です。街の店の扉を見ると、多くの場合そこにはペットOKの標を見ることができます。この国はペットについてもとても寛容です。電車やバスではかごに入れずに連れてはいれますし、飲食店や食品販売店でさえも入れるところがあります。サファリパークや動物園、干潟のツアーでさえも犬連れの家族を見ることができました。日本では、上に挙げたほとんどの場所はペットNGです。それゆえに僕は犬を街にほとんど連れて行けず、その点ではとても暮らしやすいとは言えません。店側の寛容さもありますが、犬を見ても、たとえ彼らがかごに入っていなくても、嫌がらず、すり寄ってくればなでてあげるような人がとても多いです。これまでに多くの犬(半分はリードもつけていない!)を見てきましたが、だれも怖がったり、嫌がったりするひとをまだ見ていないのは、本当に驚きです。これは一体どうしてなのか?なんらかの教育の結果なのかわかりませんが、とても興味深いです。こういった空気が、ペットに暮らしやすい街をつくっているのでしょう。羨ましいです。

 

環境政策
風力発電

8

9

畑の一本道を歩いていると、遠くに風車が回っているのが見えました。そこへと向かう小道があったため、真下まで見に行くことができました。風車をで間近で見るのはこれが初めてでしたので、その大きさと迫力は実際に見てみないとわからないものだと感じました。高さ150m、タービンの直径112m、発電量3MW。このような大きな人工物が間近で回っているのを見るのは初めてでしたし、これをまさか回すことのできる風のもつ力の強さにも驚きました。機会があれば中を見学したいものです。

デンマークで電車に乗っていると、畑や牧場の真ん中にしばしばこのような風車をみることができます。ある人はデンマークは平地の国だからこそ、風力を最大限に発揮できるのだと教えてくれました。

 ボトルデポジット制

長くなってしまっているので簡単に書きます。この国では、ボトル、瓶、缶すべてにデポジット、デンマーク語でPANTが課されます。スーパーにある自動回収のマシーンに空を入れると、自動で標を判別して、レシートの形でお金が戻ってくるのです。そしてその回収されたものは、国内でリユース、リサイクルに回されます。回収率は98%らしいです。

このPANTが7.5クローネのビールに1クローネ、5クローネの2Lの水ボトルに3クローネと、けっこうな比率でついてくるため、絶対に返そうという気になるのです。(少なくとも僕は)

 

The Wadden sea

最後に、デンマーク西岸の街Ribeにて体験したアザラシツアーについて書きます。The Wadden seaは日本語でワッデン海と呼ばれる、世界最大の海岸湿原地帯で南はオランダから、ドイツ、デンマーク、そして北端のこの街まで広がっており、とても豊かで固有の生態系をもっています。アザラシや渡り鳥の休息所、餌場、繁殖場としての重要性が高いそうです。アザラシ好きの僕にとって、野生のアザラシを見るまたとない機会なのでとわざわざ予約して参加してきました。

実際に歩き回ってみると、その広さに驚きます。見渡す限りの砂地で、地面はワームの巣穴や鳥の足跡で埋め尽くされ、それだけでこの場所の豊かさがわかります。一日に二度海に沈むというので、生き物たちにとっても、おそらくかなり特殊な環境なのでしょう。海水に耐性を持つ特殊な草が生え広がっていて、そこにも様々な動物や虫が特殊な生態系を作っているのだろうと想像できます。砂の大きさや海との距離によって、乾燥帯、湿地帯、草原地帯などと別れているため、それぞれが別々の生態系を育てているそうです。

砂と芝生でできた大きな堤防の内側には、牛や羊が放し飼いされていて、おもしろいのは、その動物たちが草を食べ肥やすこと、地を鳴らすことが結果的に堤防を強くすることにも貢献するらしいのです。景観を崩さない堤防といい環境にうまく適用させた、干潟の土地利用だと感じました。

地球温暖化による海面上昇で、この砂地は減少、消失の危機に瀕しているそうです。そうなれば、この砂場の固有種は絶滅の危機に瀕しますし、アザラシたちは休息に重要な砂地を失ってしまいます。ヨーロッパの鳥類にも多大な影響を与えるそうです。そうなれば、一体その影響がどこまで広がるのか、はたして想像も難しいです。

10

11

12

ツアーの中でこれらのことをすべて丁寧に教えてくれたのは、下の写真のLukas Neuenschwandarさんです。Wadden Sea center でツアーガイド兼自然保護員として働いていて、今回デンマーク語のわからない僕のために英語ガイドを行ってくれました。なんと彼はまだ19歳で、今年高校を卒業してから、本当に学びたいことを見つけたいことを見つけるため、大学までの一年間をここで働いているそうです。彼はここに挙げたこと以外にも、自然や環境について豊富な知識と考えをもっていて、自分の将来についてとても真剣に考えている様子が伝わって来ました。環境とは関係ないのですが、まだ大学前の青年がここまでしっかりした考えや知識を持っていることに大きな刺激を受けたため、少しここで書かせてもらいました。

13

(写真は本人の許可を頂いています。)

アザラシを見て楽しむだけのツアーの予定でしたので、こんなにもいい経験を得られるとはまさに思っていませんでした。

総括すると、デンマークはどこもとても自然の豊かな国でした。それは国民全体でそれを必要とするため、守っていこうという意志があるからできるのかもしれません。留学生活もあと半分になりましたが、これからもまた何か興味深いことを見つけられるといいです。

 

海宝慎太郎