5月10日~11日:北九州ヒアリング

皆様、M2の石尾@メルボルンです。随分前のことになりますが、今年5月に行った北九州市でのヒアリングについてご報告致します。

5月10日(木)と11日(金)の二日間に渡り、北九州を訪問し、北九州における太陽光発電システムリサイクルと、スマートコミュニティ事業への取組についてヒアリング調査を行いました。

リサイクルに関しては、北九州産業学術推進機構(FAIS)へ「広域対象のPVシステム汎用リサイクル処理手法に関する研究開発」プロジェクトの現状と、日本でのPVリサイクルシステム実現に向けた課題についてのお話を伺い。スマートコミュニティに関しては、NPO法人里山を考える会と稼働目前の地域節電所、北九州市役所を訪問しお話を伺いました。以下に伺った内容について、公表できそうな部分を極めて簡単に列記して参ります。

 

1. PVシステムリサイクルについて

  • NEDOからの委託事業として、予算約5億円、平成22年から26年までの5年間という時間をかけ、①低コストかつ汎用性のあるリサイクル処理技術の開発(結晶系、薄膜系他のモジュールに対応し、容量200MW分のモジュールが排出される際に1Wあたり5円というコストでリサイクル処理を行える技術)と、②広域対象のPVシステム汎用リサイクル処理に必要な社会システムの提案を行うという二つのゴールを掲げて活動を行ってきた。
  • プロジェクトスタートから2年、折り返し地点に入ろうとしている段階であるが、現在のPVシステム(モジュール)リサイクル技術については、ある程度の物を開発することができている。今後回収後の処理サイクルを一貫して回すことのできるプラントを建設する計画である。既に土地は購入しており(北九州市内の廃工場)、あとはそれぞれ開発した装置をひとまとめに設置すればよい。
  • 1W分のモジュールをリサイクルするコストは5円程度を目指しているが、そのコストはパネルの輸送費に強く依存するため、1か所大きな処理プラントを建設するよりも、20MW程度の中小規模のプラントを分散させた方が効率的なのではないか。
  • リサイクルプラントの普及戦略についてであるが、①試験装置の作成(動くことは確認済み)、②試験装置を統合したものを建設(リサイクルプラント)、③北九州市内にリサイクルセンターを設置、④域外への同様のシステムの導入、の手順で普及を行っていくことを計画している。ただし、後述するが、リサイクル、特にPVのリサイクルを事業化するということは非常に難しいため楽観はしていない。何か制度設計を行っていく必要があるのではないか。
  • 昨年秋から冬にかけて、EPIA、PV Cycle、Solar World、 Solar Cycleなど、EUにおいてPVリサイクルに携わる機関へのヒアリング調査を行った。PV CycleはEnd of Lifeの定義をしっかりとしていた。欧州におけるEnd of Life PVとは、耐用年数を超えたもの、運送・設置時に壊れたもの、使用中に壊れたものを指す。特徴的な点は、工場スクラップが範囲外にある点である。日本においても検討が必要である。
  • 2011年、PV Cycleのボードメンバーの一つであったSolar World社がPV Cycleを脱会した。そして、子会社の一つであるSunicon AGと共に、PVモジュールのリサイクルを専門で行うSolar Cycle社を設立した。
  • PV Cycleでは、回収したモジュールのリサイクル(ガラス、銀、シリコン)をSunicon AGに委託しており、Sunicon AGは回収した資源を売却し、利益を得ていた。
  • PV Cycleは販売するモジュールの容量に応じた会費をメンバーの会社から回収し、廃PVモジュール回収の仕組みを構築していた。
  • 初代PV Cycle代表でEUにおけるPVリサイクルの火付け役となったワンバッハ氏は、Sunicon AGの社長である。ワンバッハ氏は、PV Cycleの代表を辞し、Solar WorldとしてもPV Cycleを脱会し、新たにSolar Cycleという会社を立ち上げた。Solar CycleではPVメーカなどの会費を集めるということはせず、ビジネスとして、企業ごとに個別に処理契約を結ぶようにしている。現在は、大規模発電所を新規に設置しようとしている企業が多いようで、住宅用というよりは大口の顧客を対象として活動を行っている
  •  リサイクルシステムを確立させる上で満たすべき2つの条件がある。一つは、「それをリサイクルすることが環境にとって良いことである」ということが確実であること。もう一つは、そのリサイクルシステムの経営・運営が赤字にならない、ということである。しかし、リサイクル事業を回収された有価物の販売から得られた利益だけで回すことは非常に難しい。
  •  最もシリコン価格が高騰した2008年時の資源価格で、ギリギリペイしないという水準であるため、本当にPVのリサイクルをビジネスとして行っていくことは本当に難しい。欧州や、日本の家電4品目のように、処理しない際ペナルティを設けるなど、製造・販売者に対しリサイクルを行う動機づけを行う必要がある。

 

2. スマートコミュニティについて

2.1 北九州市スマートコミュニティ事業の概要

■2009年、経済産業省の募集する「日本型スマートグリッドの構築と海外展開」の公募があった。そこで日本全土から20地域が申請を行った。その中の4地域(横浜市、豊田市、京都府(けいはんな学研都市)、北九州市)が選定された。

■北九州市は、技術の導入のみならず生活者がそれを使いこなすことも視野にいれた「スマートコミュニティ」という独自の概念のもと、敷地面積120haの八幡東田地区(写真1)において平成22年から26年までの間に38事業を展開する。

f:id:TokyoTechAbeLab:20120809133857j:image:w360(写真1)

■東田地区においては、基幹エネルギーとして天然ガスを利用した火力発電所、東田コジェネ(新日鉄の子会社)の運用、北九州水素ステーションの設置、PVシステムの大量導入(博物館などに160kW、マンションに170kW)、東田エコクラブ(NPOの集会所)を設置しスマートグリッド導入事業に根差したまちづくりの実施、カーシェアリング・サイクルシェアリング等の環境に優しいモビリティ事業の運営、環境共生マンションの導入などを行っている。これらの活動を通じ、環境で成長する街、共有社会の創造、北九州市内の標準街区に比しCO2排出量を30%減少(将来的には50%)させることを目指している。

■東田地区でのスマートコミュニティ実証実験マスタープランにおいて実施することを義務付けられていることは、①地域のエネルギー利用を「考え」「参加」する仕組みを構築すること、②工場排熱熱など隣接する産業のエネルギーを地域で有効に活用すること、③家庭をはじめ多様な施設に省エネシステムを導入すること、④エネルギーのみならず「まちづくり」としての取り組みを推進すること、⑤海外への発信を行うこと、の5点である。

■北九州市スマートコミュニティの特徴は、①ダイナミックプライシングシステムを導入すること(CEMS:地域節電所)、②スマートメーターの大量導入を行うこと、③副次的に発生するものを有効利用すること(新日鉄工場からの排熱を利用した発電:東田コジェネ)、④直流電流住宅の導入を行うこと、⑤EVの大量導入、非接触EV充電施設の整備を行うこと、⑥市民への環境学習のための環境づくりを行うこと、である。

■中でも特徴的なのが、地域節電所である。地域で生産したエネルギー(特に新エネ)を街区単位で共有化し、エネルギー情報の開示・指令を通じ、住民貢献度の可視化を行う、また、ダイナミックプライシングによる電気料金の節約や、貢献度に基づくエコポイントの進呈など、住民がシステムに参加するインセンティブを設けることも検討している。

■上記の実証実験を通じ、新たなビジネスモデルを創生することも目指している。現在実現が期待されているビジネスには、まちづくり「スマートコミュニティ技術」ビジネス、地域節電所(CEMS)、新しい建築、オフィス・ビルなどのエコデザイン、タウンモビリティ、緑の公共事業、町の環境性能分析・評価コンサルティング、アジア標準をつくる、環境ビジネス商社の設立、アジアエコツアーなどがある。

2.2 里山を考える会

■里山を考える会は、東田地区内の施設、東田エコクラブ(写真2)にオフィスを構えるNPO法人である。エコクラブには3つのNPO、2つの会社、2つの協議会と早稲田大学の組織が1つと計7団体のオフィスがあるが、建屋は里山を考える会の所有である。東田地区でのプロジェクトでは「まちづくり」部門を特に担当しており、住民に対してスマートグリッドの仕組みやダイナミックプライシングの仕組みを理解してもらい、プロジェクトへの協力を仰ぐための説明会のコーディネート、地域のエネルギー利用を「考え」「参加」する仕組みを構築するための啓発活動等を担当している。なお、地域節電所のオープニングを5月26日に控えるが、これと同時に開催される、外部へのプロモーション活動も兼ねた「東田まつり」の企画・運営も行っている。

f:id:TokyoTechAbeLab:20120809133856j:image:w360(写真2)

■里山を考える会では、東田地区にある新日鉄工場、「工場」というものを現代の「里山」に見立てている。自然環境と異なり「工場」は慈しむものではないかもしれないが、人間社会に対して材料や資源、エネルギーを提供するという機能を有しており、また何らかの被害をもたらす可能性もある。従って里山と同様市民が上手く関わってゆく必要があるという考え方に基づいて活動を行っている。

■東田地区は東電や九電には依存していない。既に自立型の電力供給システムを確立している。それが、新日鉄の子会社、東田コジェネである。工場の発電所(天然ガス利用)から高効率のコジェネレーションシステムを利用し、発電を行う。実際に東田地区で消費する電力の90%以上をこれで賄っている。東田地区の市民には九州電力からではなく、東田コジェネから請求書が来るのだ。本来電気事業法があり、新日鉄工場内の発電機から一般家庭が電力供給を受けることは電気事業法により困難であるが、規制緩和が上手くいったため、東田地区は例外的に供給が可能である。

■東田地区には現在600人程度の人が暮らしている。そのうちの230人は新日鉄独身寮にくらしており、残りは近くのマンション、6世帯がスマートハウス実証家屋で暮らしている。マンションの屋上にはPVシステムが設置されており、マンション共有スペースで消費される電力の供給に利用されている。

2.3 地域節電所

里山を考える会のスタッフの方に、地域節電所へと連れて行って頂いた。

■不安定な再生可能エネルギーの大量導入された社会の中で、地域内の家庭やオフィスの電力需要を予測・監視し、また、再生可能エネルギーの発電量を予測・監視(写真3:監視モニター)しながら、コミュニティ設置型の大型蓄電池やダイナミックプライシングにより地域内の電力系統の需給バランスの調整を行う。

f:id:TokyoTechAbeLab:20120809134700j:image:w360(写真3)

■地域節電所では気象状況などから再生可能エネルギー技術から得られる電力量の予測と、東田コジェネからの電力のモニタリング、各家庭での電力需要量の予測、そしてこれらに基づく電力料金の決定を一手に担っている。地域節電所に価格決定の権利がある。

■これまで電気料金は一定料金であったが、これからは「季時別電気料金制」である。例えば昼間や夏場、冬場は電気料金が高くなる。今の所、単純に13時から16時までの3時間の電気料金を高く設定することを考えている。最安値の6円から、5段階で価格を上げていく。最高は1kWhあたり150円という価格である。これは緊急時を想定したもので、不断の生活の中でお目にかかる価格ではない。緊急時の電力節約を考えた際、100円程度では節電効果が無いというアメリカの研究に基づく価格設定であるらしい。今後より複雑になってくるはずである。これは京都大学の先生らが研究している。

■各家庭での電力需要についてずっと見て行けば、ユーザの行動(晴れの日はどれくらい、雨の日はどれくらい電力を消費する等)を予測することができ、より正確な電力需要予測が立てられるようになる。

■しかし、最も骨が折れるのは、住民へ参加を呼び掛けることである。実証試験への参加をお願いし、依田先生の研究に対する理解も呼びかけ、電気使用量という個人情報の取り扱いについても納得してもらわねばならない。市の職員の方々は相当骨を折ったそうである。気持ちよく参加してもらわないとならないのである。

■地域節電所(CEMS)に関連する施設やデバイスは以下の通りである。

□スマートメーター:各家庭やオフィスに設置される次世代型の電力量計で、地域節電所との間での通信機能を備えることで遠隔検針が可能となる。実証事業で用いるスマートメーターは、宅内表示装置がセットとなり、電力の使い方の情報を見ることができる。

□大型蓄電池:東田地区の電力系統に直接接続することで、再生可能エネルギーからの逆潮流により発生する不安定な電圧を解消し、地域の電力系統の安定化を図る。容量300kWの鉛蓄電池である。

□BEMS(ビル用)/HEMS(家庭用)/FEMS(工場用):ビルや家庭、工場など地域内の各施設に設置し(実証事業内では、22社程度)、地域節電所と通信機能で接続し、CEMS から気象データやダイナミックプライシングの情報を、BEMS/FEMS からは需要計画情報を送受信することで、各施設が地域節電所と連携したエネルギーマネジメントを行う。

□ダッシュボード:iPadのようなデバイスで各家庭に1台設置することが目安である。地域や家庭での電気使用量・発電状況、設定中の電力価格、お得な情報などが表示される(写真4)。

f:id:TokyoTechAbeLab:20120809134548j:image:w360(写真4)

■地域節電所では1日に2度電力価格の決定を行う。14時から16時までの間に明日の分の価格を設定し、6時から8時までに当日の見直しを行う。これは当日足りない分を外部から購入せねばならない可能性を考慮してのことである。この価格決定プロセスも今後の重要な検討課題である。

2.4 北九州市役所

夕方から市役所を訪問し、担当者の方にお話しを伺った。

■実行中のプロジェクトは種別に4つに分けることができる。①新エネ事業(東田コジェネ、蓄電池、PVシステムの導入)、②デマンドレスポンス(BEMS、HEMS、FEMS、CEMS)(例えば、大和ハウスがクローズドのHEMSを個別に開発し、IBMがCEMSとHEMSをつなぐ技術を開発する、という具合に話を進めている)③スマートメーターと地域節電所、④モビリティ事業、である。

■今はこれら技術実証の段階で、今後社会実証を行っていく。しかし、この社会実証というのが技術実証以上遥かに難しい。

■5月26日に地域節電所のオープニングセレモニー、6月からのダイナミックプライシングスタートに向け、住民の方との調整(ダイナミックプライシングの説明・加入・研究について・スマートメーターの設置・スマートメーター用電波中継器の設置等)を行ってきた。

■ダイナミックプライシング(デマンドレスポンス)に基づく、電気料金の決定については、京都大学の依田先生が研究を行っている。アメリカですでに行われているデマンドレスポンス制度の評価を基に北九州をはじめ日本各地のスマートグリッド実験試験場を見ている。

■確かに今回プロジェクトは、実証としてやっているから回っているという部分もある。問題は、平成27年からの、実証後の振る舞いだ。東田で得られた知見をいかに横展開していくかは重要であるし、東田においてさらなる発展形の実証実験などを行っていくことも可能であると思う。昨年末、北九州市は環境未来都市に選定されたため、この枠組みの中で話を進めていくことができるはずである。

■横展開に関して言えば、JICA、アジア低炭素化センター、KITA(北九州国際技術協力協会)が協働でアジアへのスマートコミュニティ推進事業を手掛けていくはずだ。ただ、スマートコミュニティだとか、スマートシティだとかの定義は未だ曖昧である。

大雑把にしか記載しておりません。より詳しくお知りになりたい方は私までご連絡ください。

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