エネルギー総合工学研究所定例研究会に参加し住環境計画研究所,鶴崎様の研究発表講演を拝聴しました。

11/25
住環境計画研究所鶴崎様の研究発表講演を拝聴した。
住環境研究所は株式会社の形を取っているが,住環境のエネルギーに関連する研究所である。
主に環境省,経済産業省,エネルギー業者からの委託研究を行っている。
■研究発表講演の内容
○家庭部門のエネルギーの実態
経済産業省では家庭部門の2030年度までの削減目標を39%(2013年度比)2050年までには建築物からの排出量を正味0にするとしている。これまでの家庭部門でのエネルギー消費量の変動は,10年前に行われた分析を見返したところ,そのエネルギー需要の見通しをかなり下回っていたことがわかった。(リーマンショックなどで経済活動が停滞したこと,東日本大震災でネネルギー消費量が減った)
家庭用エネルギー分野の課題として,総量の時系列データまではわかっているものの,消費者の特徴など電力消費構造は明らかになっていない現状にある。
そのせいで,減った要因の解明が十分できていないということが問題である。
そこで,住環境系各研究所では環境省に働きかけ,家計調査,調査員調査,インターネットモニター調査を全国10地方の専用住宅に居住する主世帯を対象を行い,家庭CO2統計の作成を開始した。来年度から正式に政府統計として本格実施する予定である。
調査の結果,家庭用のエネルギー消費は2005年をピークに減少しており,2010年に電気も減少に転じていることが明らかになった。
居住形態に関してみると集合住宅では戸建と比較してエネルギー消費量が半分程度であることがわかった。原因としては傾向として集合住宅に住んでいる家族は若い人が多く,家族の人数も少ないため,また周りを他の部屋に囲まれているため比較的暖かく暖房の使用量が少ないためと考えられる。
また,新しい住宅のCO2排出量が少ないことが顕著で,2011年以降に建てられた住宅はCO2排出量がとても少ないことがわかった。
特に暖房に良される灯油,LPガスが減少したことと,給湯器が電化したこと,家全体でLEDを使っている家庭が増えたことが要因であることが明らかになった。
○行動の分野の実証試験の結果
ー行動変容分野の現状
電力消費量の削減には大きく機器・設備からの改善,住宅・建築物からの改善,行動からの改善と分けられる。
そのうち機器・設備からの改善ではトップランナー制度の実施,LED,コジェネなどの技術の普及,
住宅・建築物からの改善では省エネ基準の義務化,誘導基準の流れができ省エネアプローチが進んでおり,将来的なゼロエネルギー住宅構想へ向けて進められている。一方で行動からの改善では改善効果の見積もりが困難で。広告や啓蒙活動も含めたアプローチに予算が割かれてきたがこれまできちんとした効果が検証できていない現状にある。「これだけお金使って効果はどれくらいあったのか?」という問いに対してどうやって合理的に測るかが大きな課題である。
ー行動変容分野への各国の期待
関連研究によれば省エネ行動を実施している人としていない人を比べると顕著にCO2排出量に差があり,行動変容によるCO2削減効果には大きな期待が寄せられており,米国大統領府では行動科学の知見の活用に関する大統領令が出され,行動変容による効果をもう一度見直してみなさいというオバマ大統領の意向が記されている。英国内閣府の分析によれば行動変容アプローチは
●すぐに始められる。明日から始められる。
●うまいやり方が見つかれば安く達成できる。
とされている。
アメリカでは行動変容のアプローチを電力会社がやっている。理由としては国の規制で電力会社が省エネを手伝わなければならないからである。節電をうまく促せた会社には大きく減らした分は保証されるなどのインセンティブが与えられる。
ー住環境計画研究所・北陸電力での実験
経済産業省委託調査でホームエネルギーレポート実証実験をオーパワージャパン,北陸電力と共同で実施した。
北陸電力管内の2万世帯に2回送付しレポート送付世帯と非送付世帯で省エネ意識や行動,電力消費量を比較した。
結果はレポート1回の送付で送付世帯では非送付世帯と比較して1.2%の省エネ効果があった。省エネ意識,省エネ行動の改善も見られた。
特筆すべき点として,この研究では特に省エネに対する意識が高いというわけではない人を対象に行い,しかもレポートを送付しただけという実験であったという点である。今まで省エネ関連実験のモニター調査では集まる被験者は特に省エネに対する関心度の高い人であることが多かった。特に関心があるわけでもない人に対した実験で1.2%の効果が得られたことは今までの政策ではなかったことである。
ーこれからの行動変容分野の省エネへの貢献
デマンドレスポンス自動化などの省エネ対策はピーク時間帯をずらすことが目的であるのに対して総量を下げるためには受給者の電力消費行動の変容が必要であると考える。これまで省エネに向けて様々な方策を考えてきたが,いいものを考えてもそれを消費者が選んで実行してくれな彼ばしょうがないという側面もあり,もっとこの点をうまくできたのではないかという反省がされてきた。この点からも人の行動というのは非常に重要であると考える。
行動変容の分野では特に効果測定の部分が困難であり,学術的な方面からの貢献が期待されている。
■感想
今回研究会に参加したことによる一番の収穫は行動変容分野のエネルギー政策における意味合いと,今後の行動変容分野への期待が伺えたことである。
イギリス,アメリカ,また日本でも行動変容アプローチによる省エネ社会の実現が期待されていることが伝わってきた。一方で効果の測定方法や効果的な行動変容を促す方法などまだまだ「うまくやる方法がわかればとても効果的である」という段階で,現在ではホームエネルギーレポートに見られるような行動科学の知見を活かした情報の提供による行動変容の促進が成功している例としてあるが,他の方法も同時に考えていく必要があると思った。この点を踏まえて自身の研究を整理し,方向性を決めていかなければならない。ぜひこの分野に少しでも貢献でき,行動変容による環境問題を含めた社会問題の解決に貢献できる研究おこないたい。
平井雄之