Reading report – Investing in Development #3

Book Name:
Investing in Development – A Practical Plan to Achieve the Millennium Development Goals

By: Jeffrey D. Sachs, The UN Millennium Project

Reported by: Shintaro Oya (B3)

Chapter 3 / Why the world is falling short of the Goals

Summary

 長期的な貧困削減には持続的な経済成長が必要であり、また、経済成長は技術の進歩と資本の蓄積に依存している。MDGsには、社会にとっての貧困減少へ向けた直接的なゴールと「資本投入量」という二つの役割がある。本章では、各国がゴールを達成することが出来ない理由、ゴール達成へ向けた経済発展の基本的なプロセス、未達成の現状に対処する上での公共機関にとっての優先事項等について説明する。

  貧困や教育やジェンダー問題や健康に関するゴールの達成は、経済の総体的な成長と発展にとって極めて重要である。ただ、ゴール達成に必要なレベルの経済成長について短絡的に語るのは誤りというものであり、多くのゴールを達成し、総体的経済成長を助けるような投資の方法について考える方がより望ましい。

一つの資本形式は他の資本形式へ貢献することができる。例えば、良い健康状態の人的資本は、教育や技術面での人的資本へ貢献でき、水や衛生面のインフラ整備は、良好な健康状態へ貢献できる。全ての資本の形は長期間の経済成長を助けることが求められている。家計の貯蓄、公共投資、外国からの借金や支援といった収入源から投資は生み出されており、また資本は投資の生産物として成長する。資本蓄積のプロセスが崩れたとき、経済成長も貧困の減少も失敗に終わるだろう。

ゴールを達成できない4つの理由

ゴール達成の成功や失敗について、単純に説明することはできず、すべての地域及びゴールで慎重な分析が必要である。しかしそこには、統治の失敗、貧困の罠、孤立した貧困地区、特定の政策の無視、という大きな4つの理由があることが分かっている。

1.統治の失敗

政府が意思決定の場面で、法の支配、健全な経済政策、公共投資、行政機関の責任ある運営、基本的人権の保護、市民社会の支援、といった重要な項目を守らなかったとき、その国の経済の発展は停止してしまう。

どんなに貧しくとも、いかなる国でも上記の項目を無視して市民を裏切ることは許されない。汚職や不当な土地の贈与を止めれば、統治の改善はコストがかからないどころか、お金が浮くことさえある。経済収支の改善はこのように低いコストで実現可能であり、また、そのような機会は決して浪費されてはならない。

2.貧困の罠

多くの国がゴール達成へ向けて前進できない2つ目の理由は、それらの国が貧困の罠から抜け出せないほどに貧窮しているという点にある。この現状を理解する上で、長期の成長を遂げるための「はしご」を登る動作をイメージすると分かり易い。

はしごの底にいる国々は、多くの似た特徴を有している。人口のほとんどが農村部で生活しており、また、都市部でもほとんどの人がきちんとした仕事に就けていない。街には、部分的な富裕地区はあるが、多くの無断居住者が不安定な財産権と公共財が欠如した環境で暮らしている。そして、乏しい人的資本に悩まされている点も共通している。

このような状況を見ると、発展戦略が成功を収めるには何が必要なのかが見えてくる。第一に、農村部での食糧生産量を上げることを目標に定める。これにより、農家が家族を養うことを可能にし、安価な食料を提供し、商業的農業および(より少ない家族が農業に従事するという意味で)都市化を加速させる。都市化による人的資源の非農業生産分野への移行は、経済と輸出基盤を多様化させる。第二に、都市が産業とサービスを国際的に競争力のあるよう、後押しするような戦略が必要である。さらにその戦略は、第一次産業への依存から製造業やサービス業へ移すように、国の輸出を多様化させなければならない。第三に、栄養不良、医療、教育、家族設計に対する豊富な投資が必要である。第四に、以上の人的資本や農村と都市における生産への投資が、地方における人材育成、科学的能力の向上、近隣国との国境を越えた投資等によって支えられることが望ましい。

良い統治を行っている多くの国も、貧しさのあまり必要な財源がなく、はしごの最初の段を登れずにいる。これらの国は、民間投資を呼び込み、熟練の労働者を維持することができてない。適切な公務員の給料や情報技術がなければ、国の運営能力も慢性的に弱いままである。このような状況では、国は様々な問題に直面しなければならないが、その中でも大きな問題が貯蓄率の低さである。家計は、収入を食料や日用品にまわすので手一杯であり、貯蓄をする余裕がない。貯蓄率が低ければ、一人あたりの資産も減少し、経済の下降や更なる貧困へと導いてしまう。そして最貧国では、人口の増加率に追いつかないほど貯蓄率が低く、外国の援助や投資でそれらが相殺できなければ、マイナス成長から抜け出すことができない。

貧困の罠を克服する上で鍵となるのは、経済の資本金を上げることである。これにはインフラや人的資本等への根本的投資が必要であり、そのプロセスは出生率の抑制が後押しをする。出生率が低下すれば、一人の子供への投資が増し、人的資本の向上へとつながるからである。MDGsは必要な投資の枠組みを創り、ゴールの達成により国は貧困の罠から抜け出すための適正なインフラや人的資本を確立するであろう。

また中には、地理的条件が貧困改善を更に難しくしている国もある。それらの国では、地理的な不利を埋めるために、他の国以上に基本的インフラの向上が必要とされている。また、統計的にこれらの国では農業の不作と伝染病の流行のリスクが高いことが知られており、インフラ、農業、健康面への投資が必要である。ただし、これらの投資は特に貧困国にとっては高額であり、援助国のより大きな支援が必要である。

3.孤立した貧困地区

次のはしごの段が生じるのは、その国の農業が自給自足のものから商業用のものへと移行し、輸出が一時産品依存から抜け出したときである。しかし、いまだに多くの国の経済で家計収入にかなりの差があり、中所得国でさえ多数の極貧世帯を有し、高度に洗練された市場を持つ大国にも、地域と民族による収入差を含んだ構造が存在する。経済成長は、時として一部の地域や集団をはるか後方に取り残してしまうことがある。多くの国には街の中に街があり、持つ者と持たざる者が近接して生活している。

現在、経済成長のはしごを登り続けるためには、中所得国も、製造業とサービス業等の幅広い世界経済との統合を深めるような、より良いビジネス環境の創造に着目する必要がある。さらに、これらの国には、純粋な技術輸入国から自身で技術を革新させる国へと移るために、科学と技術の成長も必要である。

4.特定政策の無視

ゴールが達成できない4つ目の理由は、単純に政策立案者がその課題に気付かず、何をすべきかが分からないという点にある。中でも環境政策は、政治上力の弱い環境省と、情報量およびその情報に従って行動する能力の欠如により、特に無視されることが多い。環境は短期で搾取するものとして捉えられることがよくあるが、このアプローチは世界中で失敗している。ジェンダー問題に関する公共投資、社会経済政策、母性保健、性に関する健康等も同様に軽視される傾向にある。

政策立案者と市民社会は、ゴールを達成できていない国々が上手く行えていない、公共政策と公共投資のための重要な分野について認識しなければならない。全ての政策分野は、ゴールを達成するための国家戦略の一部となる必要があるだろう。

 ゴール達成へ向けた民生投資(private investment)と公共投資(public investment

民間と公共のセクターはどちらも、ゴールに必要なほとんどの投資において役割がある。そして、それぞれに得意な分野があり、大きな誤解が生じるときがあるがそれらは競い合うものではなく、相補的でどちらも必要なものである。

1.民生投資の限界

極度の貧困から抜け出せない国に対する共通の評価は、単純に民生投資が必要だということである。ただ、一般に民生投資と、特に海外投資は、いくつかの前提条件を要している。それらは主に、道路や港や電気・水道等の適切なインフラ、物的安全性、空港や海港に近い確かな立地条件、契約やビジネス・政府間での法の支配、健康で技術的な労働力、有利な税制措置等である。海外直接投資(FDI: Foreign Direct Investment)が貧困国をめったに対象としないのは、これらの条件が満たされていないためである。これは「鶏と卵」のような問題があり、成長は民生投資に依存しているが、民生投資は健全なインフラといった上記の条件に依存している。

2.公共投資の必要性

インフラや人的資本に対する公共主導の投資がなければ、民生投資が近寄ることはない。しかしそれではなぜ、それほど前提条件として重要な投資を民生投資に主導させることができないのだろうか。

一般に、資本に対する公共の融資と、その事業の提供には区別がある。公共と民間には、「プロジェクト・プログラムに対して融資を行う公共部門」と、「その後の運営・管理を行い、契約に基づいてサービスを提供する民間会社」という関係性がある。この構造を超えた民間投資は不可能なのかと問われれば、それに対する単純な回答はなく、分野や国ごとに考慮しなければならない。

3.貧困の罠を打破するための援助

発展に対する責任は、その国自身にある。しかし、良く統治を行っている国も含めて多くの低所得国は、民間部門の成長と経済の発展にとって基盤となる投資さえ行うことができない。なぜなら、それらの国は、人口の増加や物価の下落を補えるほどの貯蓄率がなく、外国からの必要な投資を引きよせることもできないからである。

どのような援助戦略も、多くの困難に直面し、経済成長に対するその戦略の効果について議論されることになるだろう。しかし、最近の研究によると、援助が当事国の状況に即して適切に練られたものであるとき、それはその国の経済成長に(特に財政、金融、交易における政策面で)非常に有益なものになっている、ということが報告されている(Clements, Radelet, and Bhavnani 2004)。また、援助国にとっても、数十年間で少量の援助を続けるより、2005年からの10年間で援助を前倒しして自立した経済成長を早く促した方が、安価で済むということも言われている。

政府開発援助(ODA:official development assistance)での核となる考え方は、被援助国が、自立した経済成長というはしごを登り始めるための後押しをするということである。たとえもし、援助がよく練られたものだとしても、その額がその国でのインフラや人的資本を改善させるほどのものでなければ、成長が自立することはなく、その援助は貧困の罠に対する解決策ではなく配布物のままで終わってしまうだろう。

Reporter’s Own Thoughts

本章によると、ゴール達成のためには経済の発展が必要だが、貧困の罠にはまっている国にとってはその経済成長の実現が難しいため、最終的には外国からの援助が鍵を握っている、とのことだったが、その援助が上手く機能せず、被援助国の負債を闇雲に増やす可能性についても考えなければならないと思った。

また、援助が有効に活用されるためには、被援助国側のガバナンス能力も重要であるが、これに関するターゲット(8A. さらに開放的で、ルールに基づく、予測可能でかつ差別的でない貿易及び金融システムを構築する(良い統治、開発及び貧困削減を国内的及び国際的に公約することを含む。))についての評価指標は個別にモニタリングされている。しかし前章のゴール達成の進捗に関する表で「データなし」がいくつかあったように、そのモニタリング能力が低ければ、ガバナンス能力をきちんと評価をすることもできず、改善も難しいと感じる。先進諸国は支援の効率的な方法だけでなく、適切な評価の仕方についてもよく考えなければならないと思う。