ONLINE BOOK REPORTING_WEEK 8 Chapter5

Reading report week 8: Masaya Mizukami(B4)

Chapter5 part1

Summary

・Analog foundations for a digital economy

エストニアは小さな発展途上国であるにもかかわらず、包括的なデジタル開発戦略を実施することによって、インターネットの恩恵を大きく享受できるようになった国である。政府の説明責任や腐敗のコントロールは著しく上昇し、電子サービスによって、年間平均で5.4日分の労働を節約できている。エストニア以外の国々もデジタル技術に熱心に投資してきたのだが、そこまでの効果は出せていない。その原因の一つは、インターネットの普及は速かったものの、開発を促進する環境を作ることに失敗したことである。まず、開発に向けて意識するべきは「自動化できるもの」と「自動化できないもの」を認識することである。例えば、警察のサービスや医療サービスを自動化することは困難である。このように、技術だけに焦点を絞ってしまうと、往々にしてICTプロジェクトは失敗してしまう。デジタル技術だけでなくアナログ的な補完措置を行う事が、したがって求められる。

補完措置を欠いた状況下でデジタル技術を導入すると、様々なリスクが生じる恐れがある。まず、市場における競争に適切な規制が敷かれていないと、インターネットの導入は独占や集中を招いてしまう。また、インターネットのスキルに関して労働者の間で偏りがあると、自動化が機会の増大や繁栄の共有を促すどころか、不平等を生み出してしまう。そして、公的機関の説明責任が不十分であると、技術投資は市民の強化よりもむしろ統制強化に繋がる懸念がある。以上のように、デジタル技術が幅広いインパクトを与えるためには、「競争を確保するビジネス規制」「労働者のスキル」「説明責任のある公的機関」が不可欠である事がわかる。実際に労働市場の文脈で考えると、職業レベルや職務レベルの話になり、技術とルールの相互作用を見る事が重要になり得る。

・The interdependence between technology and complements

 技術と補完措置の相互作用によって、お互いの価値は高まる。つまりインターネットとは、既存の長所と短所を増幅する性質があるものだと言えて、これらの分野における進展はますます喫緊になっている事がわかる。そうでなければ、改革をしていない部分はどんどん取り残され、リスクは大きくなる。では、企業・人・政府はそれぞれどのように振る舞えば、デジタル化の恩恵を効果的に得る事ができるのか。以下に、特に重要なポイントを挙げていく。

 【デジタル介入策の失敗は、主として規模拡大の失敗である】デジタル技術の導入は、スタート地点だけに着目すると成功しているように見えても、規模拡大で苦戦する場合が多い。オンライン・コマースのプラットフォームで成功しているのは、5社中1社であるという。また、ソーシャルメディアが基盤となって起こった「アラブの春」についても、この動員は容易に政府に押し潰されてしまっている。【インターネットは開発への近道ではないが、起爆剤になり得る】前述のように、インターネットだけでなく補完措置があることによって、初めて問題は解決へと向かうのだが、インターネットの登場が既存の補完措置にインパクトを与えられることを考えると、これは開発へのアクセルになり得ると言える。【技術と人的補完措置の相互作用を理解すれば、それぞれにどれだけ投資するべきかの指針になる】職業やサービスによって、デジタル技術が適合するものとそうでないものに分けられる。その判断は、「自動化しやすさ」「補完措置の程度」によって決められる。また、民間企業は公共機関よりも結果のモニターが得意であることを考えると、制度環境が脆弱な状況下では、民間企業はデジタル技術をより積極的に導入するべきであると言える。反対に、公共セクターは補完措置の強化に引き続き力を入れるべきである。【デジタル戦略とは、ICT生産全体の導入部分に当たる】国の成長や雇用創出に貢献しているのは、ICT生産ではなく、その(広範囲にわたる)導入である。途上国のICTセクターはGDPのわずか3-4%にしかならないが、ICT企業が様々な伝統的部門に参入することによって、市場の競争を促進し、生産性を上げることができる。【デジタル戦略は、ICT戦略よりも広い範囲にわたる必要がある】政府は、デジタル技術がICTセクターを超えて経済全体に影響していることを意識しなくてはならない。つまりデジタル戦略の成功には、デジタルとアナログの両面で支えられている必要がある。デジタル側の問題は、インターネットを遍くアクセス可能で安全でリーズナブルなものにすることであり、アナログ側の問題は、適切な競争規制とスキル、および説明責任のある公的機関を支援する規制を構築することである。

 デジタル開発は「新興期」に始まり、「過渡期」を経て、「転換期」に至る。この3段階は不変のルールとは言えないが、政策優先度を一緒に踏まえると役立つ見方になる。新興期にある国は、デジタル経済が依然として初期段階にとどまっているが、ICT資本財輸入に対する高関税を取り除くことなどが優先になる。過渡期にある国は、普遍的なインターネット利用に向けて動いている段階にあり、高度な社会経済的なスキルによって効果的な電子政府システムを作り出していくことが求められる。転換期にある国は、デジタル社会に向けて転換しつつあり、プライバシーの規制や偏在的な電子政府サービスといった複雑な問題に取り組む必要がある。これらの国単位のグループ分けは、大局的な見方に過ぎず、国内の企業間やセクター間でも異なるグループに振られることが通常である。

・Regulations: Helping businesses connect and compete

 一般的に、企業のための適切な競争が促されている国では、デジタル分野で高いパフォーマンスを示すことが期待できる。これは、新規企業が参入し、退出企業が再編・退出するのを容易にするのと同時に、既存企業の独占を防止することによってなされる。競争圧力の欠如と同様、インフラの不足も、インターネットの活用の機会を阻害することになる。特に、電気や道路、郵便制度などが欠如している低所得国では、企業のデジタル技術投資が難しくなっている。

 先のデジタル開発と同様、デジタル利用度についても、3段階に分類ができる。これも「新興期」「過渡期」「転換期」と表現される。そして、いずれかの段階にある国ごとに、適切な規制改革が次のように提案される。

【新興期の国:インフラへの投資と市場競争の促進】多くに低所得国にとって、企業を下支えする基本的なインフラの整備が優先課題であり、それには金融知識や革新的な改革策が必要になる。また、各国はデジタル経済を単に歳入源とだけ見るのではなく、経済成長や雇用の源泉としても考えなくてはならない。つまり、短期的な歳入だけでデジタル利用の導入を考えるのではなく、中長期的に歳入がどれだけ増加するかを判断しなければならない。新興期のデジタル経済にとって特に重要になるのが、物流関係への投資である。配送システムやオンライン支払いシステムを改善することで経済パフォーマンスの見直しが図れる。港湾やその他の貿易インフラも大切である。ただ、最初に焦点が当てられるべきは、既存のビジネス規制や競争・反独占法の執行である。というのも、ほとんどの国にはある程度の競争ないし反独占を規制した法律があるにもかかわらず執行がされていないのだ。それも、ビジネス規制が企業間で差別的に行われているケースが時としてある。したがって、既存法の執行の現実からの乖離の削減に、まずは取り組むべきである。

 【過渡期の国:規制障壁の撤廃とインターネット新規企業参入の奨励】途上国の中には、反競争的な規則のせいで、デジタル技術を集約的に使用しようとする意欲を企業が失ってしまう例がいくつかある。過渡期の段階では、強固な競争法の制定によって施行機関の能力を補強し、法律を透明かつ効果的に執行することが求められる。また、過渡期の国は保護されているセクターを崩壊させるために、伝統的サービスを提供するインターネット企業の参入を奨励すべきである。インターネット企業はいまや、銀行、保険、運輸、観光、出版など、多岐にわたって展開されている。これらの企業は、規制当局が動き始めるよりも早く、当該部門を一夜にして競争にさらすことができる。

 【転換期の国:デジタル革新の奨励と、既存企業とインターネット企業の間の競争条件の平準化】先に紹介したような伝統的部門でのインターネット企業ではなく、「純粋な」インターネット企業は、先進国の規制当局が苦戦するような課題を作り出した。つまり、オンライン会社はオフライン会社と同程度の規制にしたがっていないのではないかという不平が挙がっているのである。伝統的サービスを提供するインターネット企業がひとたび一定の規模を達成すれば、規制当局としてはオンライン企業とオフライン企業の競争条件を平準化するために、部門固有の規制を近代化して、遵守させる必要がある。他に、転換期の国は、デジタル企業の経済における立ち回りを、マクロに、そしてミクロに観察する必要がある。例えば、Googleは検索エンジンとして知られているが、これは広告会社と評した方が良いかもしれない。伝統的な競争法を見直し、市場競争を確保し、消費者に害をもたらさないよう注意深く調整しなければならない。

My thoughts

 インターネットを含んだデジタル社会が進むにつれて、それにまつわるスキルを身に付けることはやはり重要になるだろう。本邦でも、小学校課程でのプログラミング授業が必須科目となり、今の児童たちはデジタル機器への親しみが、前世代よりもはるかに大きくなるはずだ。業務上でのインターネット利用は、各企業にとっても、国にとっても、経済的に大きな恩恵を受けられる。そして生活の面でも同様である。ただ、生活での利用時は、業務時とは違う「スキル」が必要になるだろう。それは、リテラシー問題であったり、活用例の知識だったりする。電子政府ともつながる問題になるだろうが、市民の間で知識に格差が生まれないように、教育機関や自治体が呼びかけることは大切になってくるだろう。コロナウイルスの蔓延に伴い、市民は外の情報をインターネットやテレビといったデジタル機器上のものに頼ることになったが、知識や機材に格差があれば、それがそのまま生活の格差になってしまう。給付金の申請は、主にオンライン上で行われることになったが、政府・自治体は、遍く市民が同程度の知識や機材を持っていることを前提として動いてはいけない。事実、総務省の報告によると、パソコンおよびスマートフォンの世帯保有率は、それぞれ69.1%, 83.4%になっている(2019年における結果)。また、オンライン申請の方法自体、普段からインターネットに馴染みのないグループには困難を要するものかもしれない (写真1)。加えて、スマートフォン等のデジタル機器の所有は金銭的負担があるので、高度な電子政府化を急ぐと、一部の層だけが恩恵を受けるようになってしまうことも懸念される。包摂的な政策が実現するためには、やはりアナログ的基盤は重要になるのだと思う。それはつまり、デジタル活用の問題がソーシャルキャピタルという問題にぶつかることを意味する。

 各民間企業がどれだけデジタル技術を使いこなせているかという問題は、コロナ禍で浮き彫りになった。まず専門業務上での活用は、業務ごとにデジタル技術をどれだけ役立てられるかは変わってくる。例えば、水道・電気といった公益事業や、工場や飲食店といった身体を要する事業は、業務をデジタルに行うことは困難である。しかし、全体を代替できなくとも、一部にデジタル技術を活用することによって、業務を効率的にすることはできるだろう。細かく言うと、勤怠管理やデータ管理は、デジタル技術で行うのが良いだろう。今回のような緊急時を想定するというより、平常時の業務を円滑にするため、長期的に考えて、デジタル技術の導入に積極的になるべきである。もしも、都市圏の民間企業のデジタル化がさらに発展し、名刺や判子といった伝統的なビジネス慣習も見直されていけば、深刻な過密問題も解消されていくかもしれない。

写真1:特別定額給付金のための、総務省が特設したサイトが映し出されたパソコン。サイトは、分かりやすさを徹底したレイアウトになっている。

【参考資料】

・総務省(2020)「令和元年通信利用動向調査の結果」2020年6月28日アクセス〈https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/200529_1.pdf〉