Reading Report – 環境政策を考える #8

Title: Reading Report #8

Author: Ryoya Suehara

Book Title: 環境政策を考える

Book Author: 華山 謙

Chapter IV-2:環境政策と民主主義—環境政策の基本構造

Summary:

1. 環境政策を見る視座

これまでみてきた多様な政策群は、「成長か環境か」という単純な二者択一的問題設定からうまれるものではない。第一に成長と環境破壊とをつなぐ重要な環として、私的企業の利潤追求という要因を見ること、第二に、分権的な市場メカニズムにまかしておいたのでは、環境は悪化するばかりであること、そして第三に、生存に適する環境を求める権利は基本的人権を構成する各種の権利の中で最も基本的なものであること、これらを確認することで、その系としての各種の政策が考えられたのであった。

しかし、これらの政策が示唆されたとしても、それらが現実政策として社会に採用されないとすれば、むしろ環境破壊の原因である私的利潤の追求を全面的に否定すること、すなわち全生産手段を公有化するという古典的な意味での社会主義への移行だけが、唯一有効な環境政策であるとするか、あるいは経済成長一般ひいては大量生産・大量消費という現代の生活様式を全面的に否定する、反近代主義を承認するか、しなければならなくなるかもしれない。とはいえ、それは、そこに行き着くまでに可能な限りのあらゆる手だてを尽くしてみるということとは矛盾しないだろう。

しかし、日本の国や地方の議会が、私的利益の代弁者によって多数を占められ、いわば資本の利益の擁護者として機能していることは明白な事実であるといってよい。したがって、前述のとおり、代議・多数決制は、極少数者の人権を守るという点に関して、不完全な方法論なのである。しかし、国や地方の議会が、環境の改善に関して全く機能しえないのかといえば、そうでもない。大都市の環境問題については、議会が一定の役割を果たしうるのと考えるべきではないか。たとえば、都市の大気汚染の問題や、ごみ処理の問題、また地下水のくみ上げ過ぎによる地盤沈下などの問題に対しては、市民は一致してなんらかの要求をすることができる。この場合にも、資本の利益の擁護派の抵抗があるから、容易に議会を通らないということはありうる。しかし、われわれの経験上、現代の国家はそのような民衆の要求に対して、体制維持という目的のために、部分的に応じることがあることもわかっている。その場合にこそ、代議制と多数決という方法論の中に民主主義を体現させなければならないだろう。

2. 環境政策の基本戦略

われわれの環境戦略の基本は、第一に住民がより良い環境を求める権利(環境権)が、なにものにも代えがたい基本的な人権のひとつであることを確認し、住民参加を通じて、あるいは議会によって、繰り返し、これを侵害するものに闘いを挑むことである。公害防止計画や自然保護計画などは、この戦略の中で正しく位置づけられなければならない。第二に、第一の基本戦略の目的を達成するために私的企業の生産活動について、積極的に介入し、とくにその投資活動を十分に監視し、コントロールすることである。廃棄物に関する生産工程の公開、新投資に関する環境アセスメントと住民参加などの政策は、この戦略の中に位置づけられなければならない。基本戦略の第三は、国や自治体を直接に対象とするものである。これらの契機を積み重ねながら、地域の意志ともいうべきものをつくりあげていくことは、それが結果的に社会主義への移行をもたらすものであってもあるいはなくても、よりよい環境を実現するための不可欠の段階である。より一般的には、租税制度と社会資本の形成のメカニズムをいかにして民主化していくかという課題を含むものでなければならない。

環境権を基軸として、GNPの増大よりもむしろ所得の公平な分配を、一部の人々の私的な利益になる施設よりも、むしろすべての住民の共益的な施設を、最も身近な住民運動から出発して、市町村、都道府県、国へと要求を積みあげていくことが展望を切り開く途であろう。国が決定する集権的計画、画一的基準を拒否し、本社に決定権を握られている植民的な工場の立地を拒否することが第一歩である。地域のことは地域の住民が決定する、この自明なことは、そこからはじまる。

My own thought:

本節で、この「環境政策を考える」は終わりである。最終章においては、華山氏の考えに触れることができた。本書の中で、環境問題という自明な問題とその認識のもと、多様な方法論が採用・棄却されたが、それに対する対策もまた多様であり、難しさを認識した。本書の中では、問題対策のアプローチとして、国民ひとりひとりの環境権を基盤として、一方で、国や議会の従来の代議制・多数決制を否定し、住民参加という方法論が紹介された。また、それをもってしても、日本の議会では少数者を守ることができないという主張が付け加えられている。住民参加型の意思決定は現在では有名であるといって良いだろう。上記の主張の真偽を確かめることを今後の課題としたい。また、一口に環境問題といっても、環境対策となれば、化学や物理学に始まり、経済学、政治学など多様な学問が絡んでくる。難しさを感じると同時に、楽しく、最後まで読み切り、他の学問への興味をもつことができた。