【参加報告】OECD・富山市:都市の国際ラウンドテーブル 高齢者社会におけるレジリエントな都市

皆様こんにちは!石尾です.

先日,10月17日(金),富山に行って参りました.そして,「OECD・富山市:都市の国際ラウンドテーブル 高齢者社会におけるレジリエントな都市」に参加して参りました!

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はじめに

私はかねてから,少子高齢化と,これに伴う人口減少という現象は,日本をはじめとする僅か数か国においてのみの関心事だと思い込んでいました.しかし,この思い込みは間違っていたようです.

OECD諸国における高齢者の割合は,2010年時で19.0%,2050年時には23.7%に達する見込みであり,2014年5月のOECD閣僚理事会以前からも,すでに,高齢化という長期的課題に対応することの重要性と,都市政策が課題解決において重要な役割を果たすとの認識が各国間で共有されていました.

このような認識を踏まえ,高齢化に取り組む都市,民間企業,学会や国,国際機関の対話を行うプラットフォームの一つとして,今回の国際ラウンドテーブルは開催されました.

今回開催市に選ばれた富山市は,OECDのプロジェクト「高齢社会における持続可能な都市政策」におけるケーススタディ都市となっています.

富山市は,高齢化の進展,市街地の拡散(中心市街地の人口密度や賑わいの低下),これによる都市管理コスト・自動車交通による環境負荷の増大などの課題を解決するため,コミュニティサイクルの導入,コミュニティバスや富山ライトレール(トラム)による公共交通の活性化を通じた,コンパクトシティ戦略を打ち出しています(上写真).富山市の高齢化とそれに関連する問題に対する取り組みの経験をシェアすることが,今回のラウンドテーブルにおける大きな目的の一つでした.

以下に,今回収集することのできた情報のごく一部をご報告致します.

OPENING SESSION

まずはじめに,OECD公共ガバナンス・地域開発局長であるロルフ・アルター氏によってOECD加盟国における高齢化の現状の確認が行われました.

今日,大都市圏はOECDの人口とGDPの約7割を抱えています(日本の総人口における大都市圏の人口割合は約78%).そしてOECD加盟国では,高齢者の約6割が都市圏に暮らしています(日本における,高齢者の居住地分布はOECD加盟国平均に極めて近い).すなわち,都市における政策の企画や実施が高齢社会に与える影響は大きいと言えるのです.

なお,政策の企画や実施,資源の投入は,高齢化社会とその先を見据えた長期的なものであることが望ましということが指摘されていました.その場しのぎの対処療法ではなく,特に日本では,高齢化社会後の人口減少社会を見据えたものでなくてはならないようです.長期的視点に基づく投資の成功事例としては,100年以上前に建設が始まったパリの地下鉄が取り上げられていました.

また,高齢化進展の動態は地域によって異なり,一様に高齢化を議論することの危うさについても指摘が成されました.

SESSION 1: 高齢社会が都市の持続可能な成長に与える影響

  • 横浜市の信時氏によると,市では人口増加とその高齢化,単身世帯の増加(全体の4割)が進展中であり,歳入の半分は健康福祉費に充てられていながらも,今後も約3%/年の割合で増加していく見込みだそうです.また,人と人のつながりの希薄化とともに世代間の支え合いが益々難しくなっているとのことでした.これらの課題を解決するための取り組みとして,高齢者と若者の交流サロンを設けた共同住宅の建設や,高齢者の健康促進と健康福祉費の低減のための「よこはまウォーキングポイント(歩行にインセンティブを与える)」などが紹介されました.
  • ヘルシンキのティモ・カンヘル氏によると,高齢者に関する既存の議論では,75歳以上の方々はほとんど考慮されていないそうです.この点は直ちに改善する必要があるでしょう.また,住民のWell-being向上のためにも,心のケアに関する(特に単身世帯,単身高齢世帯の「孤独」)問題に今後焦点を当てていく必要があるとの指摘が成されました.
  • 国際交通フォーラムのホセ・ヴィエガス氏によって,「高齢者の「場所へのアクセス」を保つことは,彼らの「人的資本として価値」を高いまま保つことに繋がる」との指摘が成されました.色々な場所にアクセスし,地域に貢献する中で生き甲斐が生まれるとのことでした.
  • 千葉大学の広井先生は,自治体の人口規模ごとに,域内で認識されている社会問題の内容が異なること,高齢化の進展により地域密着人口(高齢者と子どもの人口の和)は増加することを紹介していました.地域密着人口の増大に従い,都市政策と福祉政策の重要度が益々高まります.また,「虫眼とアニ眼」(私の愛読書の一つですでもありますが)から,宮崎駿の考える町の在り方に関するイラストを紹介していらっしゃいました.

SESSION 2: 高齢社会において,都市はどのようにレジリエントな社会経済づくりに貢献できるか

  •  豊岡市の中貝市長は,自家用車利用率,糖尿病罹患率などのデータとそれらの統計分析結果を用いて,豊岡市におけるスマートウェルネスシティ構想,豊岡健康プランといった取り組みとその有効性について紹介していました.市民の健康を損ねている最も一般的な原因は,生活習慣病であり,これを防ぐために市民に体を動かしてもらうことで,市政における医療費の削減,ひいてはコミュニティの維持に効果が期待できるとのことでした.
  • 京都市の高見氏によると,京都市の市税歳入約2,400億円に対し保健福祉費としての歳出は約2,800億円(平成24年)にのぼり,今後高齢化の進展と共にさらに増大する見込みであることから,京都市において将来への投資を行うことは極めて難しい,とのことでした.従って,既存のインフラを徹底的に活用する方向で取り組みを進めているそうです.豊岡市と同様,歩行者優先の街づくりなどを行い,市民に体を動かしてもらう機会を増やすことで,何とか医療費等を抑えていきたいとのことでした.

SESSION 3: 今後の連携方策

  •  マレーシアのザイヌディン・アハマド氏は,マレーシアでは未だに親の老後を子がみるという社会システムが,「もしそれをしなければ罰される」レベルで維持されていることを紹介していました.家族や地域コミュニティなどソーシャル・キャピタルの活用の大切さについて,マレーシアの取り組みを交えながら紹介していました.

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おわりに

どの発表者も,高齢化社会に対する課題に前向きに取り組んでいきたいという姿勢であったことが印象的でした.

高齢化社会と経済・雇用の問題,貧困,高齢者の介護など,今回の会合だけでは取り上げきれていなかったトピックもあるので,今後もOECDの取り組みをフォローし,さらなる情報の収集に努めて行きたいと思います.まだまだ,研究によって貢献できる余地は数多くありそうです.

今回特に印象に残ったのは,富山市長の「何が有効かわからないが,思いついた手をどんどん試していきたい」とのいった旨の言葉でした.解決策が判らない大きな問題であるからこそ,打つことのできる手を全て検証していこうという心構えが今後益々重要になるのではないかと思いました.