グリーンエコノミーフォーラム主催 「ポスト2015枠組み・持続可能な開発目標(SDGs)に関する最新動向・課題~持続可能な開発を実現するための国際目標のあり方とは?~」 に参加しました。

グリーンエコノミーフォーラム主催

「ポスト2015枠組み・持続可能な開発目標(SDGs)に関する最新動向・課題~持続可能な開発を実現するための国際目標のあり方とは?~」

に参加しました。

1. 講演会内容

[第一部]報告会

講演者①西森美佳氏(外務省交際協力極地球環境課課長補佐)

発表内容

「ポスト2015枠組み・SDGsに関する国際交渉の最新動向」

講演者②蟹江憲史氏(東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授)

発表内容

「持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究動向」

講演者③小野田真二氏(法政大学大学院公共政策研究科公共政策専攻博士後期課程)

発表内容

「ポスト2015枠組・SDGs関連国際会合における各ステークホルダーの動向・提案」

講演者④田辺有輝(「環境・持続社会」研究スタッフ)

発表内容

「持続可能な開発に関する既存の国際目標と新しい設定に向けた課題」

[第二部]意見交換

<パネリスト>

第一部講演者

<司会>

足立治郎(グリーンエコノミーフォーラム理事/JACSES事務局)

2.西森さんの講演内容について

西森さんの講演では、リオ+20から始まるSDGsに関する会議と、ポスト2015開発アジェンダに向けた国連総会の会議/交渉の最新動向、及び今後の展開(予想)についての報告がありました。

この報告を三点に分けてまとめます。

2.1ポストMDGsの必要性についての報告

目標期限である2015年が迫っているMDGsについて、一定の成果は出ているものの、このままでは達成困難な目標、達成に遅れが出ている地域、新たな課題などへの対処が必要と考えられています。

・達成困難な課題

+教育、母子保健・衛生

・達成が遅れている地域

+サハラ以南のアフリカ・南アジア・オセアニア(島嶼国)

・新たな課題

+国内格差の拡大・持続可能な開発の必要性

2.2ポストMDGsに関するハイレベルパネル報告書の概要についての報告

報告にあったポストMDGsに関するハイレベルパネル報告書では

・2030年までに貧困を地球上から撲滅すること

を中心の目的として

・MDGsの長所(簡素・明快-実践的数値目標・期限付き目標)を維持した新しい目標

を作るため

①誰一人として取り残さない(普遍性)②持続可能な開発③雇用創出と包摂的成長のための経済の変革(質の高い成長―グリーン成長)④平和構築、実効的、オープンで説明責任を有する制度の構築⑤新たなグローバルパートナーシップの構築

を変革点としてポストMDGs制定にむけて土台作りを行っていくことが報告されています。

2.3現在の動向に関する報告

現在、ポストMDGsの制定にむけて、SDGs OWG(Open Working Group)という政府間会議が行われており、現在は各国がSDGsに取り込むべき問題点を提起している会議を重ねている段階で、2014年の2月から、提起された問題を実際どのように扱うかの交渉プロセスを経て、同年9月に国連総会に報告する流れとなっています

同時に、SDGsの制定に向けたファイナンス部門の会議(ファイナンス委員会)が行われ2014年9月に国連総会に報告する流れとなっています。

この二つの報告をもとに国連加盟国の交渉を経て2016年からポストMDGsが始動する流れになっています。

問題点として懸念される点として、①全体的にスケジュールが遅れがちになっていること②現在は問題提起のみで簡単な議論だが、交渉のプロセスに入ると、各国の利害関係の観点から会議が複雑化、長期化する恐れがあること。③具体的に決まっていない目標に対するファイナンス会議が平行して行われていること、が挙げられます

2.4まとめ・感想

個人的には、ポストMDGsが

1.先進国が途上国に対してのドナーとしての役割として行動するためではなく、全人類に共通の普遍の行動指標となるような目標

2.成長や雇用といった、将来を見据えた目標

というのが新しい観点で、重要性を感じました。

また、持続可能な開発やGDPを補完する新たな開発指標などは阿部研究室(あるいは国際開発工学専攻)の一員として貢献できる内容ではないかと感じました。

一方で、紛争や戦争、テロなどの問題に関して言及されていない点に不十分さを感じました。

3.蟹江先生の講演内容について

蟹江先生は主に目標のあり方について報告されていました。内容を、感想を交えながらまとめたいと思います。

3.1普遍的で簡潔な目標

まず、あらたな目標のありかたとして、途上国の開発目標(MDGs)ではなく、先進国を含めた普遍的な目標であること、MDGsの特徴であるわかりやすい目標を維持することの重要性を強調していました。

そこで興味深い表現として

「目標を各家庭の冷蔵庫に貼って子供が理解できる内容」

ということを話しており、近い将来、国連の開発目標が各家庭に掲示されている世界を想像して、ちょっといいなと感じました。

一方で、MDGsのわかりやすさのカギとなっている、定量的目標という点に対して、達成しやすいというメリットを持ちながらも、教育などの質が求められる問題に関してはそぐわないのではないか(質が落ちる)との指摘をされていました。

特にSDGsでは雇用や質の高い経済についての目標を新たに盛り込むため、質の求められる問題が増えるので、定量化はより難しくなると感じました。

3.2地球容量の限界

報告の中で、持続可能な開発の再定義に関する言及がされていました。

そこで、地球容量の限界(Planetary Boundaries)についての話がありました。その地球容量の限界について説明します。

人間活動がハイペースで増加しているなかで、当然資源は減少し、環境汚染が進行します。人間活動が地球の容量(維持・再生が可能な領域)を超えると、生物多様性の喪失、気候変動など、それぞれの環境問題から、地球変動へと問題が巨大化します。これが地球容量の限界を超えた状態です。

よって、持続可能な開発を「地球容量のなかで、地球の生命維持システムを維持しつつ、世代間の要求と現在の世代の要求を満たす開発」と定義し、その目標を人間の行動変化のために据える必要があると話されていました。

3.4目標設定の方法論

新たな目標設定に関して、各項目の地域特性(例:水問題に関して、日本と、メコン川流域国では考え方が違う)や各項目の連関(例:エネルギーと水;下水処理施設を作ったが、エネルギーが不足して稼働していない)に注意した目標設定をすることの重要性について言及していました。

このあたりでは、問題解決をより具体的に考えており、科学的知見が必要となることから、東工大、とくにIDEの役割が今後大きくなるなと感じました。

蟹江先生は、諸問題に対して自然環境目標(地球の豊かさ)人間環境目標(人間社会の豊かさ)のそれぞれで目標設定し、それらを合わせた統合目標を制定する方法論を紹介しており、とても興味深い内容でした。

4.小野田真二氏の講演内容について

現在、ポスト2015開発アジェンダ策定へ向けた活動はSDGs(持続可能な開発目標)OWG(オープン作業グループ)とファイナンス委員会の2本の柱からなっており、このOWGに実際に参加された小野田さんから「OWG参加ステークホルダーの概要」と「日本国内におけるポスト2015枠組みへの動き」についての説明がありました。

4.1 Open Working Group

OWGでは包括的な構想形成に始まり、食糧や環境問題といった個別のテーマ、経済・政策上の課題、途上国の中での更なる細分化されたニーズ、といった項目を今年3月に開かれた第1回から一年間計8回の会合の中で議論されていく予定です。

このOWGに参加できる団体はある程度限定されており、「国連経済社会理事会(ECOSOC)の協議資格団体」、「国連持続可能な開発委員会(CSD)、リオ+20、持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)に参加実績のある団体」のみが基本的には参加団体として認められています。ただ、公式オブザーバーとして(1)企業及び産業(2)子供及び青年(3)農民(4)先住民族(5)地方自治体(6)NGO(7)科学・技術者(8)女性(9)労働者及び労働組合、の9カテゴリーに属するステークホルダーの代表者は「メジャーグループ」を形成し、OWGの中で発言機会を得るそうです。

また、各回のOWG会合が始まる前の朝には1時間のMorning Hearingが開催され、その日のテーマについて意見交換が行われます。その際、(1)地域社会(2)ボランティア団体・財団法人(3)移住者・家族(4)高齢者・障害を持つ人々、の各代表者が「その他ステークホルダー」としてメジャーグループと運営委員会を構成し、進行を行うそうです。

(詳しいOWGの進捗レポートはSUSTAINABLE DEVELOPMENT 2015のホームページにて見ることができます。)

4.2 日本からの提言

現在SDGsは色々な団体が各自で研究・提案している段階であり、発端であるコロンビア・グアテマラ両政府によるRIO+20における提案、国連事務総長のイニシアチブの一部として発足したSDSN(Sustainable Development Solutions Network)による提案、企業系グループであるグローバル・コンパクトによる提案、国連NGO連絡サービス(UN-NGLS)の報告書、といったものがこれまでも出されてきました。

日本国内においては「動く→動かす」という団体がポスト2015アジェンダへ向けた様々な活動を行っております。「動く→動かす」はミレニアム開発目標(MDGs)を達成し、貧困問題を解決するために2005年に発足した世界的な市民社会ネットワークGCAPの日本版で、日本のNGO73団体が参加しているそうです。これらの団体の中から、いくつかの提言が行われてきています。

5. 田辺有輝氏の講演内容について

ポスト2015開発アジェンダ策定には課題がまだまだあると言われますが、包括的な枠組み策定が先行しているようで、実は個別のテーマに関する研究も進められています。田辺さんからは持続可能な開発(主に環境的側面)に関する各テーマの既存目標、提案されている目標案、策定に向けた課題について解説がありました。

5.1 テーマ別動向

エネルギー

2012年に発表された国連事務総長イニシアチブ「Sustainable Energy for All」が今後も踏襲され、「国際合意」に格上げされる可能性が高い。ただ、化石燃料利用、原子力発電、大規模水力発電、大規模バイオの是非等の論点は先送りされる見込み。

現行の目標としてはMDG7-Cがあるが、今後もこれがアップデートされるだろう。ポスト2015においても「安全な飲料水と衛生施設への普遍的アクセス達成」の目標が導入される可能性は高い。「水利用改善」の目標化についてはRIO+20においてEUが主張していたが途上国のスタンス次第。

気候変動

2009年12月のコペンハーゲン合意が現在の代表的なもの。提案されている目標案については具体的なものもあるが、SDGsの策定には間に合わない可能性が高い。

生物多様性(含む森林)

MDG7-Aおよび7-B関連を含む愛知目標(2010年)での20の目標が存在している。愛知目標の年限は2020年。ただ、単純な年限先延ばしによる目標弱体化や2030年目標の先取り決定が問題視されている。

海洋

ヨハネスブルグ実施計画や愛知目標で、海洋資源の管理・保全に関する目標を策定。この分野は技術的に極めて複雑であり、改めて目標が定められるか、現行目標がアップデートされるかが論点になる。

土地劣化・砂漠化防止

RIO+20で土地劣化の±0達成が合意されている。土地劣化の割合を純量でゼロにする等の目標設定が提案されている。SDGsに入れば新規の国際目標成立か。

持続可能な消費・生産(化学物質・廃棄物など)

既存の消費・生産に関する包括的な目標はなし。提案されている目標案はあるが、それほど深く言及されてはいない。食糧・エネルギー・水等の目標との棲み分けが今後の課題となる。

持続可能な都市・交通

そもそもMDG7-Dの年限が2020年であるため、ポスト2015との兼ね合いが微妙。大気汚染・水質汚濁等の都市問題は含めないのかといった課題や、交通に関する目標案があまり注目されていないという問題もある。

化石燃料補助金

既存目標としては、無駄な消費を助長し持続可能な開発を損ねる有害かつ非効率な化石燃料補助金の段階的削減に向けた約束の再確認(G20・APEC)、およびまだ参加していない国々への取り組み奨励(RIO+20合意文書)がある。ただこれがポスト2015のテーマとして扱われるか、「奨励」から「合意」に格上げなるかはまだ微妙なところ。

6. 第二部意見交換会のまとめ

第二部の意見交換会では

「目標変化が具体的な行動変化につながるのか」という点についての議論が行われていました。

SDGsに関して、目標を変化させても具体的な行動変化につながらなければ意味がないのではないかという意見を持たれている方が多く、セクター別のアプローチやターゲットを絞るなどの工夫が必要との声がありました。

一方で行動変化につなげようと考えると、合意可能な範囲での目標に限られてしまうという懸念が挙げられていました。

それに対して、特に西森さんと蟹江先生から、

人々の行動に落とし込めるような目標誘導型の簡潔な世界目標を作ることを目的としていると回答しており、この考えに対して非常に明快で納得がいきました。

特に蟹江先生はこれに加え、各問題の連関を明らかにすることと、既存の問題をとらえなおすこと、カバーできていない問題を明らかにすることの重要性を強調し、研究者と社会とのInteractが必要と述べていました。

一方で、現実問題として西森さんは、ファイナンス委員会からは、問題解決のため、途上国からはかなりの額の資金援助を求められているなど、実行に反映する際の問題点が実際に起こっていることも述べていました。

(大屋・平井)