M1の町田です。先週末に早稲田大学で開催された国際開発学会第21回全国大会(20周年記念大会)で発表してきたのでその報告をします。
<20周年記念大会>
国際開発学会(Japan Society of International Development)の初代会長は、阿部研の2010年度春学期のゼミの教科書“Limits to Growth”の誕生に深く携わった元外務大臣の大来佐武郎氏であった。氏は、日本人初の「グローバリスト」と言われ、氏の足跡は日本の国際協力の歴史そのものと言っても過言ではない。学会でも企業でも何でも、あらゆる組織には創立/創業者たちによって築かれた「組織文化」というものがあると思うが、私が物心ついたときにはもう逝去されていた氏のぬくもりのようなものを体感できる機会があるとすれば、この国際開発学会の大会がそうであろう。
今年の全国大会は、(残念ながら!)近場の早稲田大での開催であったが、さすが早稲田とあって、学会運営の学生ボランティアから、企画セッション「大学性による国際協力」、懇親会でのフェアトレードコーヒーの宣伝まで学生の活発さが目立っていた。また、今大会では難聴の方のための手話通訳も導入されるなどバリアフリーにも配慮された大会であり、マイノリティに対する配慮もこの学会ならでは、という感じであった。
学会賞・著作部門の表彰の様子。
懇親会での国際開発学会会長の西川潤先生の挨拶。
<企画セッションでの発表>
私は、我々の専攻の花岡先生が座長の「国際開発と工学的アプローチ」のセッションで卒業論文の内容をベースに発表しました。質疑応答では、水道事業のキャパシティアセスメントツールの開発に携わったコンサルタントの方などから質問をいただくなど反響があり、セッション終了後まで意見交換ができ非常に有益な発表となった。
発表の様子。
<その他のセッションへの参加>
「開発とビジネス」
アジア経済研究所(ロンドン駐在員)の佐藤寛氏の企画セッションで、私が通して参加した唯一のセッションだったが、非常に興味深いものだった。以下に報告の一部を紹介する。
◆佐藤寛氏(アジア経済研究所)「倫理的貿易と開発 -バリューチェーンとの遡行と開発問題の逆照射-」
近年、開発にビジネス(効率性)の視点が取り入れられ、ビジネスには開発(Ethical)の視点が取り入れられ、開発とビジネスの両者が接近していると現状を概観。
Ethicalの定義は難しいが、環境や労働条件を無視してまでより安い商品価格を実現するといったことをしない、というように「本当はできるけどやらないこと」と佐藤氏は定義しているらしい。これは、A.Senの自由の概念と関係しているような気がする。未開の地で自給自足の生活を送る原住民と、都会から農村へ回帰して野菜作りに勤しむ自然派は、環境負荷は同じとしても文脈が異なる。エコとかフェアとかいうEthicalなのは後者の文脈だということだろう。
最新のイギリスの動きも紹介してくださった。ロンドンでは、社会的株式投資市場の創設が真剣に検討されている。また、イギリスの食品スーパーではフェアトレードなどのラベリングが乱立し、消費者の混乱を招いている。いずれは、それぞれのスーパーのプライベートブラントとしてのラベルに収束するだろうという指摘がなされているそうである。
◆平野光隆氏(株式会社電通)「日本企業が再び世界をリードするために:新興国に進出する日本企業の課題と可能性」
大量消費、大量廃棄の20世紀型ビジネスモデルからの転換は必至だが、具体的にどう変えていくかは企業にかかっている。共創型ビジネスを、主導企業+電通のようなファシリテーター+地域や他業種のフォロワー企業によって作ることを目指している。また、カーボンマイナス事業の可能性を模索している。
◆米良彰子氏(オックスファム・ジャパン)「企業とともにみる地域へのインパクト:Poverty Footprint の活用を通して」
いわゆるBOPビジネスの利益ではなく、社会面でのインパクトの評価手法について、ユニリーバとOxfamが共同で開発したPoverty Footprintという手法の紹介。個人的には、Footprintというと消費者視点での個別商品のインパクトを想起するが、単純にいろいろな途上国での事業の環境影響評価の貧困版で「貧困削減影響評価」といったところなのだそうだ。
最後に、コメンテーターの大野敦氏(神戸国際大学)氏からは、倫理的消費には「積極的倫理的消費」(よりエコ、フェアなものを選んで買う)と「消極的倫理的消費」(不買運動など)があると指摘があった。日本は、後者が弱いなと思った。日本ではどちらかというと不買運動はEthicalではなく安全性への過剰反応から起こることが多いだろう。あまり、ネガティブな行動は好きではないが、企業の行動を変えるには不買運動が非常に効果的であることは確かだろう。
セッション終了後に佐藤氏に以下のような質問をした。
「日本やアメリカでは景気動向によって、中間層の消費者の環境問題や開発の問題への関心が浮き沈みする傾向があるように思うが、イギリス(EU)ではどうなのか。」
佐藤氏は「確かに、イギリスでも景気が悪い時にEthical Goodsの売上に影響はでるが、それによって議論自体がしぼむことはない。景気動向に関係なく開発の問題についてコアな議論がある。アメリカは、何でもビジネスから入る傾向があるが、イギリスは何でも開発から入る。」と答えてくださった。異なる民族・言語での対話を具現化しているEU議会での議論等と比較して、日本の国会はとかく政争に終始する場面が多く、それに見かねたのであろうか自民党の石破茂氏が「ディベート能力開発講座」を作ったのは、象徴的である。日本には、もっと中間層まで取り込んで、ODAやその他の開発問題に関する継続したコアな議論が必要であろう。そのためには、国際開発学会の会員をはじめとする実務者・研究者の努力が重要だろう。
「人間開発」
今年9月に行われたMDG中期検討ハイレベル会議や、(こちらも20周年記念号である)“Human Development Report 2010”で取り入れられたMultidimensional Poverty Index (MDI)などに象徴されるように、開発指標の分析は今再興を呈している。今大会でも、関連の研究発表がいくつか見られた。その一つに、東工大の今の副学長の牟田博光先生の研究室のポスドクの方からの発表「人間開発指標再考:ランキング指数からバランスチャートへ」があり、興味深かった。
その他、私自身は参加していないが、特色のある以下のようなセッションも開催された。
・「開発援助におけるフィールドワーク調査の再検討」
近年増加傾向にある国際協力学科のおかげか授業や卒論でフィールドワークを取り入れる学生が急増しているが、その有効性に疑問を呈したセッション。
・「バングラディッシュ農村電化の成果と持続的発展に向けた国際協力」
・「沖縄の振興開発の課題と今後の沖縄の発展の方向性」
・「生物多様性と貧困緩和の可能性」
阿部研の今年の旅行ゼミのテーマと関連したセッション。
最後に、ひとまず初めての学会発表を無事終えることができてほっとしています。報告の機会を与えてくださった、花岡先生、阿部先生をはじめ、発表練習でコメントをくれた研究室のみなさんに感謝いたします。
町田