流出統計解析 
呑川の最大の特徴は豪雨時の下水越流によって生じる急激な水位の変化です。

平成20年7月には呑川上流域での集中豪雨によって生じた突発的水位上昇によって、河床作業中の作業員が流され、お亡くなりになるという痛ましい事故が起こりました。図1a はその時の工大橋水位計及び池上水位計の観測値です。(事故現場は工大橋と池上の間の比較的池上よりです。)水位上昇開始からわずか数10分の間に最高水位が記録され、その急激さがうかがわれます。

このような呑川の流出特性を把握することは、呑川における作業の安全性確保に資するだけでなく、呑川の生態環境改善のためにも重要です。本解析はそのようなことを背景と及び目的として行ったものです。
図1a. 工大橋と池上の水位変化(2008年7月8日)
(東京都土木技術研究所よりいただいたデータを加工したもの)
図1b. 水位観測所
(上が工大橋、下が池上 Googlemapより)

解析に使用したデータは2000年〜2007年の間に東京都建設局河川部によって計測されたものです。雨量データは図2中の赤点で示した9雨量観測所のデータを、水位データは先述のように工大橋、池上での観測データを使用しました。すべて観測時間間隔は1分です。

今回はこのデータを用いて、観測点からの距離による重み付け平均によって集水域平均5分間雨量を計算し、使用しました。水位データも5分間隔に間引きをして使用しています。

図2. 雨量観測所と水位観測所
(黄色の点は観測点から距離による重み付け平均で集水域域平均雨量を求める際に使用した点を示し、ピンクの円はその探索半径です。)

図3,4に工大橋、池上それぞれにおける集水域平均5分間雨量の最大値(mm/5min.)と、最大水位の関係を示しました。
ここでそれぞれの集水域が異なることに注意してください。集水域マップ作成時に指摘したように、工大橋上流の集水域と池上上流の集水域は異なっており、それぞれの集水域について求めた平均雨量を使用しています。(詳しくは集水域マップ参照)

図3,4より工大橋、池上共に集水域平均5分間雨量が1mmに達すると水位上昇が始まるということがわかります。
また最大5分間雨量と最大水位の関係が線形になっているという点が面白いところです。

図3.工大橋における最大集水域平均5分間雨量と最大水位の関係
図中で色の違うプロットは、降雨の中心がどの集水域であったかということを示しています。紺なら工大橋より上流域、ピンクなら下流域、こげ茶色は集水域全体で降ったいべんとです。
図3,図4ともに降雨の中心の違いによる最大雨量と最大水位関係はほとんど見られません。
わずかに図4中下流での降雨イベントの場合に線形関係が崩れている程度です。

従って、呑川の最大水位は集水域平均の5分間積算降雨量と比例関係にあることが推測されます。

図4.池上における最大集水域平均5分間雨量と最大水位の関係

次に、流出時間と頻度の関係を考えます。

ここで、流出時間とは

【最大降雨量生起時間と最大水位生起時間の差】

と定義します(図6参照)。

図5.流出時間の定義


6.流出時間の頻度分布 図7.池上の流出時間頻度分布と降雨中心

図6を見ると、工大橋での流出時間は20分、池上では40分ということがわかります。
池上では工大橋と違い、流出時間のピークが2つ存在します。

図7は、池上の流出時間と頻度の関係です、凡例にあるように、こげ茶色が集水域全体での降雨イベントを示しており、以下青が上流域、ピンクが下流域です。青とピンクを比べると、青は流出時間40分で最大頻度を迎えるのに対し、ピンクは20分から30分の間に最大頻度を迎えます。
これは、下流域の降雨が、池上の観測所に近いことが原因です。

このように2通りの流出パターンが存在するということは、
呑川流域規模の空間的広がりにおいて、降雨のパターンが2通り存在するということを示していると考えられます。
もちろん、流出経路の違い(下水道幹線を通るのか、直接呑川流入するのか)という原因が考えられますが、
現時点においては、降雨パターンの存在の可能性を指摘することとします。

詳細については、今後の流出解析で検討していきたいと思います。
《次のステップ:流出解析》

 


使用データ (描画:ArcGIS9.2)
数値地図 5mメッシュ(標高) 東京都区部 国土地理院、  数値地図 2500 (空間データ基盤) 関東-3 国土地理院
集水域マップ
データ提供:東京都土木技術センター
厚く御礼申し上げます。