IATUR 2017 発表報告 (International Association for Time Use Research 2017 in Madrid)

皆様こんにちは,石尾です.

私はこの度スペインの首都マドリードに行って参りました.世界の生活時間研究者が一堂に会する学会,International Association for Time Use Research,通称IATURに出席するためです(なお,本学会への参加は,公益財団法人 村田学術振興財団 の助成によって実現したものです.財団関係者の方々には改めて御礼申し上げます).

今回の学会は,私にとってはある種の「挑戦」でありました.私にとって,これまでは,一つの学会につき一つの口頭発表をParallel Sessionにて行う,というのが恒例でした.しかし今回私は,①二つの口頭発表を行い,②うちひとつはPlenary Sessionにて参加者全員に対して発表を行い,さらに,③単なる口頭発表ではなく同時に「楽曲」のデモンストレーションを行うことになっていました.したがって,渡航直前の緊張感はこれまで以上に高いものでした.

今回の学会のテーマは,”Time Use Research: Past, Present and Future Perspectives”というものであり,私がPlenary Sessionにおけるスピーカーとして声をかけてもらえたのも,アブストラクトの中で,この”Future”に該当する新たなTime Use Researchのコンセプトを提示したからだと考えております.そのコンセプトとは,第一にPsychophysiological Time Use Surveyであり,第二に,Daily Life Sonificationというものでした.

さて,久しぶりのヨーロッパ渡航です.しかし,発表準備に追われるあまり(発表を心配するあまり),羽田空港に到着してからも,飛行機に乗り込んでもなお,「海外に行くのだ」というワクワク感をあまり感じることなく,経由地であるドバイ国際空港に到着してもなお海外渡航ならではの情緒を感じることなく,ただただ研究室で机に向かっているような気分で時を過ごしておりました.

そしておよそ20時間におよぶ移動の後にマドリードに到着しました.乳幼児を連れての航空機による移動における両親の苦労を間近に眺めつつの(もちろん適宜手伝いつつ)移動でした.

  

¡Hola!とGracias.以外にろくなスペイン語も知りませんでしたが,空港から市内までの地下鉄での移動は非常にわかりやすく,快適でした(しかし,空港からホテルの最寄り駅を結ぶ最短コースが,駅の改修工事のため利用不可能であったため多少の混乱はありました).そして,ホテルの近くのレストランにて夕食をとりようやくスペインに来たのだという実感が湧いて参りました.

スペインの気候は温暖ですが乾燥しており,湿度は日本の半分程度であったと記憶しております.従って,暑いには暑いのですが,皆その暑さを受け入れているというか,エアコンを点けなくとも木陰で休めば快適であるような気候でした.そして,特に驚いたのが,日の入りが非常に遅いことで,夜の10時ころであっても外は薄暗い程度で,日の入りの遅さ故か,人々もどこか夜更かしをしがちであるような感を受けました(真夜中を過ぎても,日本の夜9時と同じ位の雰囲気です).滞在場所が市街地であったという点を差し引いても,マドリードは夜の長い街なのではないかと思います.

発表前日は一睡も出来ませんでした.私の発表は初日(7月19日)の一番最初と,最終日の(7月21日)一番最初に予定されており,特に初日は,Plenary Sessionにおける最初のスピーカーとして学会参加者の中で一番最初に口火を切らなければならなかったため,確実に朝一番に会場に行かねばなりません.しかし,発表準備疲れと時差ボケの影響を受けていたため,私には,たとえ目覚ましを二重三重にかけたとしても朝時間通りに目を覚ます自信が無かったのです.

早めに会場となるEscuela Técnica Superior de Ingenieros Industriales UPMに向かいます(写真左).しばらくすると見知った顔がちらほら,あっという間にその時は来ます(写真右).

  

  

あっという間に終わりました.この発表では,従来のTime Use Surveyで収集されてきた心理的情報(Affective/emotional states)に加え,ウェアラブル端末等を用いて生理的情報(今回はHeart Rate Variabilityによって示される生理的ストレスレベル)を収集することで,より多面的に生活を評価し,生活ストレッサーや生活の中のポジティブ感情の源泉等についてより確度の高い情報を提供する手法(通称,Psychophysiological Time Use Survey)を提案しました.

発表後に,何人ものかたから好意的なご意見を頂くことができ,今後より手法の信頼性を高めつつ,回答者負担を減らしつつ,そして,測定結果を有効活用するための方法を提案していこう,さらに,より多くの地域や状況下での測定を進めていこうとモチベーションが非常に高まりました.

やはり,学会はすばらしいです.

また,最終日の発表においては,Daily Life Sonificationのデモンストレーションを行いました.日常生活における人の生理心理的状態を楽曲として表現するのです.具体的には,感情の変化をコードとその進行で,生理的ストレスの変化をメロディーとして表す方法の紹介を行いました.これまでに無い,IATURにおいても全く新しいと言ってもよい試みであったため,他の参加者の方の反応に関して若干の不安がありました.しかし,実際発表してみると,楽曲の演奏後には拍手を頂くなど,こちらも比較的好意的に受け止めて頂くことができ,非常にありがたかったです.

今回の挑戦は,体力的には厳しい部分もありましたが,発表を通じて多くの研究者の方々とつながることができ,また,多くの方々から,今回の提案手法に対し前向きなコメントを頂くことができ,結果的に非常に楽しく時を過ごすことができました.

頂いたコメントはどれも今後の研究の励みとなるものであり,そして,いつの日か,ここでつながり会えた方々と共同研究などを行っていきたいという気持ちを掻き立てられるものでした.

来年度はハンガリー,ブタペストでの開催です.これから一年,よりいっそう研究をはじめとする活動に励み,パワーアップして来年度の学会に望みたいと思います.

最後に,マドリードは非常に美しい土地でした.特に,マヨール広場周辺の路地の雰囲気が気に入りました.そして,レアル・マドリードの本拠地であるエスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウは圧巻でした.やはりレアル・マドリードは最高のクラブの一つだと再確認して参りました.

  

石尾