2023/2/1

【神田先生より寄稿】都会にて(2) ―立春の梅―


こんにちは。Webマネージャーの添田です。今回も神田先生より記事の寄稿を頂いたので掲載致します。神田先生ありがとうございます! By Soeda

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キャンパスの春はまず、講堂脇にひっそりと訪れる。立春というのにまだまだ寒い日が続くが、ある昼下がり、思い立って足を向けてみると、今年も、やはり紅白梅が遠慮がちに咲いていた。若いころは梅など気に掛けることも少なかったが、年齢を重ねるにつれ、待ちわびるようになった。

満開の桜は豪華で、木肌も滑々と輝くようであり、若さを象徴するような美しさである。その完璧さを受け止められなくなってきた。それに比べ、梅はどことなく安心である。背も低く、樹枝もごつごつと折れ曲がり、木肌は黒く水気がない。年寄りのようだ。しかし、早いときには年を越えずに寒空に咲き出し、凛として、いぶし銀の佇まいである。

例年、白梅が紅梅の先をゆく。白梅は芳香を放つので、本館のそばを通りかかると、それとわかる。白い花弁に顔を近づけると何とも言えない春の香りがする。贅沢な匂いのごちそうだ。紅梅は、匂いは弱いが、白梅の後を追って、視覚のコントラストを生み出す。

この贅沢を何度も味合わないうちに、年度末の多忙に紛れ、いつのまにか梅は静かに退場し、桜が取って代っている。するとキャンパスは新しい人々と共に活気に満ちてくる。その頃になって、ああ、梅はとっくに終わってしまったんだな、と気づくのだ。