「貝と羊の中国人」 
                       章 晋

 日本に来てはや七年もの月日が流れ、中国人の前では日本の社会、文化についてよく知っていると自負していますが、中国とどこが違うのかと聞かれると、いつも言葉が詰まってしまいます。

確かに、中国と日本は同じ東アジアの国であり、同じ漢字を使っていて、同じ多神教で、似ているところはたくさんあります。西洋人にとって、東アジアの国々の特徴を見分けることが難しいのも不思議ではありません。同じ東アジア人の私にはもちろん、これらの国の間に、言語、習慣、気質など目に見える違いが分かりますが、こうした人々の行動の裏づけとなる違いが存在していることを漠然と知りつつ、明確な言葉にすることができませんでした。その理由は自分が日本もさることながら、出身地の中国でも淡々と生活を送っていただけで、中国社会の本質について理解していなかったからなのだと思います。

あるとき,偶然にも「貝と羊の中国人」という奇妙なタイトルを持つ本が目に入りました。好奇心でこの本を何頁かめくってみると、独特の視点に立った解釈に感銘を受け、手放すことができませんでした。

「貝と羊の中国人」は本の冒頭に記されている様に、財、貨、賭、買……、義、美、善、養……、という貝のつく漢字と羊のつく漢字から、多神教的で有形の財貨を好んだ殷人の貝の文化や、一神教的で無形の主義を重んじた周人の文化を受け継いだ中国人の本質に迫るということを目的に、漢字、語法、流民、人口、英雄、領土、国名など様々な角度から説明した、中国の理解に役立つ本です。

中国人の自分にとっても勉強になったところが多く、今話題となっている東アジア関係、チベット問題に関して考えを改めました。その中で、一番興味深かったのは本の最後にある外国を理解するときの勘所についての記述です。「外国人が、中国の機微を理解するためには、「冷たい目」と「暖かい心」の両方が必要である。外国人として、中国社会を外から突き放して見つめる、冷徹なまなざし。それと同時に、同じ人間として、中国人といっしょに怒り、泣き笑うことができる、共感する心。」

中国に限らず、どこの国を深く理解するにも「冷たい目」と「暖かい心」が必要になるのではないでしょうか。私は就職後、日本と中国を中心に、アジアや世界を相手に仕事することを希望していますが、未だに、日本を含め色々な国の行動に理解できないことがたくさんあります。私は幸い、国際開発工学専攻にいることで、たくさんの国際経験豊かな、そして、国際理解に長ける先生方と学生さんに恵まれています。そのメリットを十分に活かし、残りの一年間の学生生活を悔いのないように送って生きたいと思います。








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