学生に勧めたい名著4 「一般向け科学本」

 

科学者の専門的知識と、一般人に理解可能な教養、その間には大きな溝がある。専門的知識が世間に広く受け入れられるためには、ある種の翻訳作業が必要だ。我々科学者は、日々の研究に埋没し、この翻訳作業を忘れがちだ。難しい科学法則はそのままの数式・定義では一般の人には理解不能なことが多いので、それをわかりやすく説き直す、ある種の大胆な抽象化が必要だ。世界を100人の村に例えるのはその好例といえよう。数は少ないが、このような視点から難解な科学を抽象化し翻訳しようとした名著がある。科学の普遍法則を論文化することに比べ、翻訳作業は、実に難しい。あまりに抽象化が過ぎれば、専門家から厳密性を欠いているとの批判を受けよう。厳密性・写実性を求め過ぎれば、お念仏のように一般人にはさっぱり理解してもらえないだろう。科学本の中で、子供向け図鑑の監修が最も高度で難しい、と言われる所以は、そこにある

 以下は、一般向け科学本の名著である。このような啓蒙的科学本のいくつかの部分的な誤りだけをあげつらって揶揄する批判本もあるが、そのような批判は、全くの的はずれである。この種の翻訳本が無ければ専門知識は専門家の中だけで眠る宝の山となり、一般市民にとっては存在しないと同じである。

内容が正しいか正しくないか、一般に受け入れられているかどうか、読者が共感出来るかどうか、新しいか古いか、などとは別に、若くて敏感な諸君の前頭葉に、「こんな考え方や知的世界あったのか!」、といった一撃を与えるだろう。


「ご冗談でしょう、ファインマンさん」岩波書店 R.P.ファインマン著 大貫昌子訳

「生物と無生物のあいだ」講談社現代新書 福岡伸一

「遙かなるケンブリッジ」新潮文庫 藤原正彦著

「わら一本の革命」春秋社 福岡正信著

「海馬」新潮文庫 池谷祐二・糸井重里著

「文明の逆説」 講談社文庫 立花隆著

「脳と仮想」 新潮社 茂木健一郎

「唯脳論」 ちくま学芸文庫 養老孟

「複雑な現象単純な法則」草思社 マーク・ブキャナン著 阪本 芳久訳

「ガイアの時代」工作舎 ジェームズ・ラブロック

「生命とは何か」岩波新書 エルビン・シュレディンガー著 岡小天・鎮目恭夫


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