学生に勧めたい名著3 「孤独に耐える力を与えてくれる名著」


 我々は、人生でいろいろな困難に出会う。多くは、恋人(伴侶)・友人・家族、などの力添えで乗り越えていける。そのため、他者との関係性、すなわち社会性・協調性に力点を置いた指南本や、名著は枚挙に暇がない。

しかし人生、どうしても、たった一人で立ち上がり、立て直さなくてはならない試練があるものだ。そのような時に励ましてくれる名著を紹介する。

 

1,芥川龍之介「トロッコ」

 思いがけず炭坑夫のトロッコに乗って遠くまで来てしまった8才の良平は、涙を堪えながら暗い線路沿いをひたすら走り抜き、何とか一人で家にたどり着く。家庭を持ち、社会人になり、塵労に疲れた良平の前には、今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある路が、細細と一すじ断続しているのであった。

 

2,村上春樹「沈黙」

 いじめでクラスメートを自殺に追いやったという濡れ衣を着せられ、周囲から白い眼で見られる主人公。押し潰され、挫けそうになった彼は、ある出来事をきっかけに自分を取り戻し、ついに卒業まで誰とも話さず、冷酷な大衆圧に一人で耐え切るのであった。

 

3,夏目漱石「私の個人主義」(講演録)

 小説とは何か、自分でその答えが見いだせないまま、悶々とし、留学先の英国でも、鬱々と塞ぎ込んでしまう。そして、ついに、答えを外に探し求めるのではなく、自己の内にその立脚点を見いだす、いわゆる自己本位の考え方に行き着く。これが学習院の学生を前に語られた当時、「個人主義」がSelfishと誤解され、批判されたそうである。真のオリジナリティーとは何かを考えさせてくれる、名講演録である。

 

4,ショーペンハウエル「幸福について」

 取り扱い要注意の19世紀の厭世哲学。くれぐれも読み方を間違わないで欲しい。

仏教的な虚無を基盤に据え、明快で冷徹な西洋的ロジックで、人間存在のはかなさを、これでもかというくらい掘り下げる。その思想は、あまりに暗い。しかし、孤独に耐え抜く真の精神力を養うためには、並大抵の哲学では生ぬるい。超辛口のショーペンハウエルさえ卒業できれば、もう何も怖いものはないだろう!難解なニーチェの「超人」思想に影響を与えたが、ショーペンハウエルの文章は、曖昧さを許さず、平易にして明快そのものである。岩波から、「読書について」、「知性について」、「自殺について」、なども出版されているが、包括的で毒がやや薄いという点で、表題本がビギナーにお勧め。「幸福を内に見いだすのは困難である。外に見いだすのは不可能である」

 

5,アラン「幸福論」

前掲のショーペンハウエルにより、人間存在のBottom(底)は認識できるが、ではどうすれば良いか、と言うことについては何も書かれていない。そこで、アランの「幸福論」でも読んで、ショーペンハウエルを解毒し、Surface (表層)に浮かび上がって来てください。「我々は、幸福だから笑うのではない。笑うから幸福なのだ」


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