学生に勧めたい名著その2



<日本人論>

国際人たるには、まず、我が国を語れなくては。


(1) 新渡戸稲造 「武士道」
明治時代に、このような日本論を日本人自身がしかも英語で書いていたというのは本当に素晴らしい。

(2) イザヤ・ベンダサン(=山本七平)「日本人とユダヤ人」
山本七平の日本分析はどれもこれも面白いが、決定版はやはりこれ。

(3) ルース・ベネディクト「菊と刀」
アメリカの文化人類学者が第2次世界大戦直後に記した日本論の名著。

(4) 河合隼雄 「中空構造日本の深層」
かなりマイナーな日本論だが、確実に一読に値する。

(5) 李御寧 縮み志向の日本人
日本を欧米と比較するのではなく、同じアジア(中国・韓国など)と比較することにより、日本の特殊性を明確にしようとしたもの。かなり面白く説得力あり。もう少しメジャーになっても良いような論だが、ネーミングをはじめ表現に細かい刺があるのも一因か(日本の侵略の歴史を思えば致し方ないが)? 残念。

(6) ルイス・フロイス「ヨーロッパ文化と日本文化」
16世紀の宣教師が見た日本。リアリズムがあって面白い。

(7) 大嶽秀夫 「二つの戦後・ドイツと日本」
敗戦国でありながら、不死鳥のように戦後復興を遂げた日本とドイツ。しかし、その戦後処理と方向性は、両国で大きく異なっていた!




<小説日本編>

どれもインパクトが強い。取扱い注意。


(1)    金閣寺 三島由紀夫 著
三島由紀夫は「夭折の美学」を説き、華の絶頂期をそのまま永遠に凍結させる(=破壊・死)ことを至上とした。かなり危険な美意識だが、金閣寺はその中でも最高傑作の一つと言って良いだろう。

(2)    蘇る金狼 大藪春彦 著
人間誰しも内部に野獣を秘めている。レイモンドチャンドラーのハードボイルドものなどと違って、あくまで暗く、救いようがない(女性にはお勧めできない)。破滅が描き込まれている。3億円事件や劇画ゴルゴサーティーンに影響を与えたとされる小説。男性なら一度はのめり込まずにはいられない。故松田優作主演による映画もお勧め。

(3)    人間椅子 江戸川乱歩 著
少年探偵団などお子様向けの小説を除けば、これ以外にも「屋根裏の散歩者」「一寸法師」「鏡地獄」など、その面白さは、まず間違いがない。このオリジナリティーと、おどろおどろしさは、一体どこから来るのか?

(4)    東京日記 内田百間 著
内田百間は、黒澤明の遺作映画「まあだだよ」でわずかに知られる程度だろう。しかし、このオリジナリティーはすごい。実は、芥川龍之介や三島由紀夫も絶賛している。これ以外にも鈴木清順監督による名画チゴイネルワイゼンの原本になった「サラサーテの盤」も真に恐ろしく、捨てがたい。

(5)    破獄 吉村昭 著
伝説の脱獄名人を題材にした小説。素材は極めて特殊だが、そこに鋭い人間観察が為されている。これ以外にも、吉村昭の小説は緻密な取材と精巧な論理に裏打ちされており、工学・科学と親和性がよい。初期の人間模様を扱った作品群も、非常に分析眼が鋭く、名作が多い。「漂流」もリアリズムに徹し、ロビンソン・クルーソーなどより数倍面白い。

(6)    峠 司馬遼太郎 著
「龍馬が行く」「坂の上の雲」など大長編も面白いが、この本や「燃えよ剣」などの方が、締まっている。

(7)    海辺のカフカ 村上春樹 著
ワシは天の邪鬼なので、世界的ベストセラーに乗っかるのが嫌で、何となく読むのを避け取ったが、これはすごい。哲学・思想に関する基礎教養がある人には、より深く、より面白く読めるだろう。

(8)    ローマ人の物語 塩野七生 著
世界史をきちんと学んでいない多くの日本人にとって、とくにハンニバルからカエサルくらいまでの初期の物語がめちゃくちゃ面白いだろう。司馬遼太郎の歴史小説と並び、6類の学生にとっては必見の書と言える。歴史に学べとよく言うが、科学の進歩を別にすれば、処世・治世の術というのは紀元年前後に出尽くしているのでないだろうか?

(9)    眠れる美女 川端康成 著
雪国を書いた川端康成の小説とは思えない、老・死・性を扱った危ない名作。


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